『源氏物語』は恋愛小説なのか? これだけは押さえておきたいあらすじ
【第三部:薫の青春と恋の悲劇/第四十二巻「匂宮」~第五十四巻「夢浮橋」】 光源氏の子(じつは柏木の子)薫と、今上帝と明石の中宮(光源氏と明石の君の娘)の間に生まれた子、つまり光源氏の孫にあたる匂宮を中心に話が展開する。第四十五巻「橋姫」~第五十四巻「夢浮橋」は京南郊の宇治が舞台なので、とくに「宇治十帖」と呼ばれる。 厭世的な薫は宇治でひっそりと暮らす大君と中の君の姉妹を知り、大君に心を寄せる。大君はこれを拒み、中の君を妻合わせようとするが、中の君は匂宮と結ばれる。大君は心労が重なり、薫に看取られながら他界してしまう。 大君を忘れられない薫は中の君に迫るが、中の君は異母妹の浮舟を薫に紹介する。亡き大君によく似た浮舟を薫は愛するが、匂宮も浮舟を知ると強引に関係を結んでしまう。薫と匂宮の間で悩む浮舟は入水をはかるが、比叡山の高徳の僧侶に助けられ、出家して尼僧に。薫は浮舟の居場所を聞きつけるが、二人が結ばれることはなかった。
恋愛小説を超えた人間ドラマ
『源氏物語』に対しては、現代人の多くが「平安王朝を舞台にした、理想的な貴公子光源氏の華麗な恋愛物語」というイメージを抱いているだろう。 確かに物語は主人公光源氏の恋愛譚を中心に展開する。そして光源氏は、生まれ育ちがよく、ハンサムで女性にもて、頭もよくて教養があり、仕事もできて......という、まさに絵にかいたようなスーパーヒーローとして描かれている。 じゃあ、そんな人物が幸福な生涯を送ったのかというと、そうとは言いきれないところが、『源氏物語』の面白いところである。この作品には、古めかしい物語から連想されるような陳腐さや幼稚さがない。多彩な登場人物と複雑なストーリー、巧みな心理描写・情景描写が陰影に富んだ人間ドラマを織りなし、物語に深い奥行きとリアリティを与えている。要するに、ごく単純な恋愛小説などではないのだ。
古川順弘(文筆家)