『HAPPYEND』空音央監督 ノスタルジーを持って都市を切り取る【Director’s Interview Vol.440】
近未来の日本を舞台に描く青春群像劇。映画はエドワード・ヤンを彷彿とさせる空気を纏いつつ、今の日本が抱える問題を浮き彫りにしていく。ある種SFとも言える独自の世界観を構築し、友情と政治の関係性をナチュラルに描き出した。空音央監督の長編映画デビュー作は、自由さと確固たる信条、そして鮮烈な作家性に溢れていた。空監督はいかにして『HAPPYEND』を作り上げたのか。話を伺った。
『HAPPYEND』あらすじ
今からXX 年後、日本のとある都市。ユウタとコウは幼馴染で大親友。仲間たちと音楽を聴いたり悪ふざけをしながら毎日を過ごしていた。高校3年のある晩、こっそり忍び込んだ学校でユウタはとんでもないいたずらを思いつく。翌日いたずらを発見した校長は激昂し、学校に四六時中生徒を監視するAIシステムを導入する騒ぎにまで発展。この出来事をきっかけに、大学進学を控えるコウは自らの将来やアイデンティティについて深く考えるようになる。その一方で、変わらず楽しいことだけをしていたいユウタ。2人の関係は次第にぎくしゃくしはじめ…。
友情と政治の関係
Q:青春群像を描きながらも日本社会の本質に切り込んだ感じがありました。友情と政治の関連性にフォーカスした意図を教えてください。 空:自分の政治への目覚めは2011年、3.11の震災がきっかけでした。ちょうど大学生の頃でしたが、日本で起こった地震について調べていくうちに、関東大震災の際に起こった朝鮮人虐殺について知ることになる。すごく衝撃を受けました。「こんなことがあったのに、なぜ教えられなかったんだ?」「なぜ起こってしまったのか?」と、様々な疑問や感情が湧き上がりました。虐殺に至った要因を調べていくと、当時の差別感情や、日本の植民地主義の歴史がわかってきた。そのことを調べていた2014年の日本社会は、関東大震災が起こった当時の日本社会の加害性を反省していない傾向が見受けられました。ヘイトスピーチのデモが起こり、歴史を覆い隠そうとする人たちが出てきていたんです。 日本は巨大地震が起こる可能性が高い国です。では近い未来、歴史を反省せずヘイトの感情が続いていて、さらに右傾化が進んでいたらどうなるのか? その状態で大地震が起こるとどうなってしまうのか? その思考実験が今回の映画に繋がっていきました。 その実験が映画の骨組みだとしたら、それを肉付けする素材として、学生時代に経験した友人との関係性とその崩壊を主軸に考えていきたいなと。学生時代はアメリカに住んでいたのですが、当時のアメリカでは「Occupy Wall Street」や「Black Lives Matter」などが起こり、政治的な運動が活発でした。そんな中、自分自身も政治的な考え方を更新していくわけですが、それが理由で、仲が良かった友人と距離が出来てしまうことがありました。そうならざるを得なかった理由はちゃんとあるのですが、せっかく培ってきた友情が無くなってしまうのはすごく悲しいことでもある。高校時代の友人関係は今でも続いていますが、大学で出会った友人との関係は政治的な理由で崩壊してしまった。それは本当に悲しい出来事で、一時期はそのことが僕の心を支配していました。それを忘れたくないことも映画を作った理由の一つです。
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