白昼堂々の暗殺に“レンガ詰め”遺体─バングラデシュ「強制失踪」の闇 ハシナ政権崩壊で被害の実態が明らかに
2024年8月にハシナ前政権が崩壊したバングラデシュでは、それ以前に横行していた反体制派に対する超法規的な拉致と、その被害者が収容されていた地下刑務所「鏡の家」の実態が少しずつ明らかになっている。 【画像】白昼堂々の暗殺に“レンガ詰め”遺体─バングラデシュ「強制失踪」の闇 ハシナ政権崩壊で被害の実態が明らかに 罪なき市民とその家族の人生を破壊する無慈悲な手口と、ハシナを強権政治に走らせた「家族のトラウマ」を米紙「ニューヨーク・タイムズ」が取材した。 夜明け前に看守が押し入ってきたとき、ミール・アフマド・カセム・アルマン(40)は、もう死ぬのだと思った。 彼は8年もの間、窓のない地下刑務所の独房に閉じ込められ、終わりのない暗い夜を過ごしていた。 看守は、アルマンに祈りをすませるよう命じると、彼が四六時中、身に着けていた分厚い目隠しと金属製の手錠を外し、手首を布で縛った。 後で遺体が川に浮かんでいるか、水路に横たわった状態で見つかったとしても、看守らを罪に問える証拠は何も残らないだろう。 看守はアルマンをミニバンに押し込み、彼を上から覆い隠すように乗り込むと、1時間のドライブに出発した。だが、バングラデシュでひそかに拘束された他の多くの人とは違い、アルマンが連れ出されたのは処刑のためではなかった。彼は首都ダッカ郊外の荒れ地で車から降ろされた。 8年の間に多くのことが変わっていた。新しい高架高速道路と開通したばかりの地下鉄。だが、アルマンは最も新しく大きな変化にまだ気づいていなかった。過去15年にわたって強権的に国を統治してきたシェイク・ハシナ首相が、国外に逃亡したのだ。 8月5日にハシナが辞任すると、秘密の刑務所に長らく閉じ込められていた3人の男性が解放された。アルマンもそのひとりだった アルマンは2016年、治安部隊に拉致された。当時の彼は甘やかされて育った、ふっくらとした頬の弁護士だった。あれから8年、アルマンはやせ細った姿で、ふらつきながら外の世界に戻ってきた。あごひげをうっすら生やし、髪は薄くなっていた。 暗闇で孤独に過ごした年月の間、彼が何とか正気を保てたのは、妻と娘2人を思う気持ちがあったからだ。「せめて天国では家族と一緒に過ごせますようにと、いつも神に祈っていました」とアルマンは言う。