高校生が廃棄物からセスキ合成に世界初挑戦【STEAM教育のきざし】
この話を聞いた部員たちは、ぜひやってみたいと研究チームを結成した。その中心となったのが、当時2年生で現在は大阪大学工学部1年の曽我部亮(そがべりょう)さんだ。
ごみ問題のことはそれまで知らなかった曽我部さんだが、調べると、西条市の生活系ごみの排出量は愛媛県内の市町村で最も多く、リサイクル率は最も低かった。「自分たちの街の課題は自分たちで解決しなければ」と思い、挑戦することにしたという。
一石三鳥の成果を目指す
おむつ灰の成分のデータは花王から提供を受けていた。最も多く含まれるのは炭酸ナトリウムなので、それをどう活用するか。部員たちは先行研究をいろいろと調べ、話し合いながら活用法を模索した。
そこで炭酸ナトリウムが二酸化炭素を吸収することを知った曽我部さんは、仲間たちに方向性を提示。賛同が得られたのでさらにリサーチを進めたところ、炭酸ナトリウムからセスキが生成されることを発見した。「要らないものを使って二酸化炭素を回収しながら使えるものを作るという、一石三鳥の案が浮かびました。それをみんなに話したら『面白いな、やってみよう』ということになりました」
失敗の経験を新たな開発に生かす
炭酸ナトリウムと二酸化炭素を反応させたときにセスキが生成されることは先行研究で明らかになっていたものの、セスキのみの合成を目指すのは、世界で初めての試みだった。
花王や京都大学の研究者に伝えると、高校生たちの着想に感心し、アドバイスを送ったり生成物の分析を引き受けたりと、積極的に関わってくれたという。セスキの合成がなかなかうまくいかず、苦慮していた時には「京大の先生から、相図(そうず)を使ってみたらと勧められました」(曽我部さん)。
相図とは物質が温度や圧力といった諸条件で気体・液体・固体のどの状態になるか示した図で、さまざまな条件を試していくうちに、セスキの結晶が生成されるようになったという。
次は収量を増やしていく段階だが、ここでは手違いが予想外の成功に結びついた。合成された試料をろ過する際に誤ってエタノールを入れてしまい、その場にいた誰もが失敗だと思ったものの、分析するとセスキの結晶が多くできていたのだ。部員たちが理由を調べたところ、エタノールは貧溶媒なので水と混じると試料が溶けにくくなり、セスキの収量が増えたことがわかった。それ以来、合成の過程で必ずエタノールを添加するようになった。