巨大IT規制新法案でスマホアプリは本当に安くなる?国際連携が進むテックジャイアント規制
■ グーグルとアップル以外で対象となりうる企業 伊永:通常、消費者がスマホの中でアプリを取得する場合、アプリストアからアプリをインストールします。これに対してPCでは、しばしばウェブサイトでアプリを見つけてダウンロードします。 実は、スマホでもウェブからアプリをダウンロードすることは可能なのです。ただ、ウェブからのダウンロードを通して、マルウェアなどのウイルスに感染する可能性もあります。 今回の新法は、ウェブからのダウンロードを規制の対象とはしていませんので、ウェブからのダウンロードによるリスクは消費者の自己責任です。EUのデジタル市場法はここも規制の範囲にしたので、様々なリスクが生まれ、この法律の弱点だと指摘もされています。 ──新法(巨大IT規制新法案)の対象となる企業として、グーグルとアップルの名前が挙げられていますが、他にも対象となる企業はあるのでしょうか。今後、対象となる企業の数は増えると思われますか? 伊永:現状はOSの支配者であるアップルとグーグルが新法の対象ですが、この新法はアップルとグーグルだけを狙い撃ちにしたものではありません。新たに人気のあるアプリストアが登場し、そこから多くのアプリが販売・提供されるようになれば、そこも新法の規制の対象になっていく可能性があります。 規制の対象となると、アプリ事業者に対して限定的な課金の方法を強制することができなくなるなど、運営に様々な制限がかかるようになります。ただ、市場支配的な地位にならなければ、規制の対象になることはないと思います。 ──GAFAM等はサービスがデジタル上で、世界中で使用されています。どこの国の法律で、どのケースを、どの国が規制するか、正確に見極めて対処していけるものなのでしょうか?
■ 法案作成過程で一番大きかった争点 伊永:世界中で規制が全く同じであれば話は簡単ですが、規制の形は国によって少しずつ異なります。しかし、今回の新法はEUのデジタル市場法を横目に見て設計されているので、連携はしやすいものになっています。 また、全世界で共有されるような問題意識が今回の新法の規制対象ですから、当局同士が国際連携をしながら問題にあたっていくことになると思います。 今回の新法の原案を作ったのは内閣官房のデジタル市場競争会議です。内閣官房はイギリスの競争・市場庁(CMA)と連携を結んでいます。 Brexit(イギリスのEU離脱)によって、イギリスはEUのデジタル市場法の適用外になっていますが、デジタル市場法に代わる独自の法案、デジタル市場・競争・消費者(DMCC)法案を作りました。 施行までには少しまだ時間がありますが、この法案は先日成立したので、日本とほぼ同じタイミングで法整備が進められており、連携がしやすいはずです。 ──今回、スマホソフトウエア競争促進法案を作るにあたって3年間協議したということですが、どのあたりが争点になりましたか? 伊永:デジタルプラットフォームを規制する透明化法と独占禁止法に大きな期待があったのですが、独占禁止法に関しては、デジタルプラットフォーム事業者の違反認定が見つかりませんでした。 EUでは1件ずつ違反にして、その例を積み上げて、デジタル市場法の立法事実を固めました。日本政府の新法はEUのデジタル市場法を参考に作りましたが、違反実態が認定できなかった。つまり、アップルやグーグルが何か悪いことをしたから規制するというわけではないのです。 ただ、デジタル市場の特性として、独占が形成され、維持されやすい。だから、一定の政府の関与を許容して、競争を促進する必要があるのです。 長野光(ながの・ひかる) ビデオジャーナリスト 高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。
長野 光