イスラエルのジェノサイドに加担したバイデン政権。ホロコーストの教訓は「誰に対しても」生かされるべきである
自壊する欧米 ガザ危機が問うダブルスタンダード #3
約600万人ものユダヤ人が犠牲になったホロコースト。2023年10月7日のハマスの越境攻撃は許されるものではないが、イスラエル軍の報復では多くのパレスチナ人が犠牲になっている。 【写真】イスラエル軍のレバノンへの攻撃を回避させたレーガン大統領 『自壊する欧米 ガザ危機が問うダブルスタンダード』より一部抜粋・再構成し、バイデン政権の責任を明らかにする。
ジェノサイドを否定するアメリカ
南アフリカの起こした訴えへのバイデン政権の反応は冷淡だった。 国家安全保障会議のジョン・カービー報道官は、まだ公聴会で具体的な陳述がなされる前に「イスラエルがジェノサイドを遂行しているという主張は根拠がない」と断じ、「ジェノサイドは、軽々しく使ってよい言葉ではない」と釘を刺した。 国務省のマット・ミラー報道官に至っては、「イスラエルを激しく批判する人々こそが、イスラエルの消滅とユダヤ人の大量殺戮を公然と呼びかけ続けている」と、イスラエルを罪に問おうとしている側にこそ、「ジェノサイド」の意図が疑われると糾弾した。 もっとも、こうしたアメリカ政府の発言が、ガザで現実に起こっていることの綿密な検証に基づくものとは考えにくい。「どのようにアメリカ政府は、イスラエルがジェノサイドを行なっていないという判断に至ったのか」という報道陣の質問に対し、ホワイトハウスの報道官は回答を避け続けている。 イスラエルの軍事行動が国際人道法に適っているかについても、アメリカ独自に検証しているわけではなく、イスラエル政府や軍の高官がそう主張しているのを額面どおりに受け取っているだけだ。 バイデン政権がいかにパレスチナ人の苦しみに冷淡かを象徴したのが、ハマスによるテロから100日の区切りに、バイデンが発した声明だった。
事実から目を背け続けるバイデン政権
声明には、「ガザでハマスの人質となっている6人のアメリカ人を含む100人以上の罪のない人々」に関する言及のみがあり、2万4000人超のパレスチナ人の犠牲も、ガザでは1日10人の下肢切断手術を受ける子どもがいることも、住民の9割近くが強制移住の状態にあることも、4割超が危機的な飢餓状態に陥っていることも、一言も言及がなかった。 もちろん、ガザでのイスラエルの軍事行動が法的な意味でジェノサイドにあたるかどうかは今後、慎重に審議される必要がある。 しかしこの短期間にガザでは人口の1%以上にあたる人々が殺され、子どももこれだけ犠牲になっていること、支援物資の搬入が制限されていることで組織的な飢餓が起こっていることは「ジェノサイド」という言葉で表現するしかないほどに衝撃的であり、「自衛」の名のもとに正当化されるはずがないことは疑いがない。 バイデン政権はこの事実から目を背け続けている。 イスラエルの残虐な攻撃が続く中でも、アメリカの政治社会には、イスラエルの軍事行動を批判することをためらわせる異様な雰囲気が広がってきたことは、すでに論じたとおりだ。 12月の初めには、下院で「反シオニズムは反ユダヤ主義であることを明確かつ断固として表明する」という文言を盛り込んだ決議が圧倒的多数で可決された。 現実に起きているガザでの大量虐殺は直視せず、それどころか、イスラエルのパレスチナ市民への無差別攻撃や集団懲罰を批判する人々を、「反ユダヤ主義者」「ユダヤ人虐殺の煽動者」と批判し、その口を封じていく。そんな状況がアメリカに生まれているのである。 本来ガザ危機においてもっとも活発に発言し、この問題についての理解に貢献すべき中東研究者ですら、政治的・社会的圧力を強く感じ、「自己検閲」に走りつつある。 メリーランド大学とジョージ・ワシントン大学が、アメリカの大学で中東問題について研究する教授や大学院生936人を対象に、「中東について、とりわけイスラエル・パレスチナ問題について話す際、自己検閲をするかどうか」と尋ねたところ、69%が「する」と回答し、とりわけイスラエルとパレスチナの問題について話す際に、「自己検閲」をする必要性を感じていると回答した人は82%に及んだ。 より詳細に、どのような局面で「自己検閲」の必要性をもっとも感じるかという質問に対しては、81%が「イスラエルを批判する時」と答え、「パレスチナを批判する時」は11%、「アメリカの政策を批判する時」は2%にとどまった。 この数字を見る限り、「大学キャンパスでは、イスラエルに不当な、親パレスチナの言説ばかりが許容され、蔓延している」という議員たちの主張とは真逆の言論状況がある。中東に関する専門的な知識を持つ人々でも、キャンパス内外からのさまざまな圧力を恐れて、イスラエル批判をしにくくなっていると感じているのだ*1。
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