伝統技術の継承、身近な物で子の成長を願った伊豆「雛のつるし飾り」
桃の節句の飾り物として通販などでも販売されている人気の和裁細工「雛のつるし飾り」。竹ひごの輪から糸を下げ、その糸に布で作ったさまざまな小さな人形を吊って雛壇の両側に飾る江戸期より今に伝わる伝統細工だが、もしかしたら廃れていたかもしれないという。
艶やかなつるし飾り200点以上を展示
静岡県伊豆半島東側に位置する温泉地、稲取地区。ここで今、地元の温泉旅館協同組合による「雛のつるし飾りまつり」が開催されている。入館料300円を払って会場に入ると、中は艶やかなつるし飾りの世界。大小さまざまな飾りが4会場で計200点以上展示されている。 吊っている布で作られた人形は魚やうさぎ、太鼓、桃、巾着などさまざまなものがあり、一つ一つがユニークだ。うさぎは呪力のある神の使い、桃は邪気を退治し延命、長寿をもたらすもの、巾着はお金がたまるなど、それぞれに意味が込められており、そこが魅力でもある。 「昔は雛人形を買うにはそれなりに裕福でないと無理でした。身近な物で子の成長を願った稲取独自の風習です。稲取は雛のつるし飾り発祥の地なんです」と女性スタッフ。伊豆半島でも隣接地域も含めてつるし飾りの風習は見られないという。
雛のつるし飾りを復活
「雛のつるし飾りを絶やすことなく継承していきたい」 ── こう話すのは稲取で製作体験工房を営む絹の会代表の森幸枝さん。地元の主婦らとともに日々、つるし飾りを手作りしている。節句の飾り物として人気が高まり、百貨店などからの注文も相次ぎ、今では毎日製作しないと間に合わない状況だという。類似品や作り方が異なる製品も出回る中、森さんらは伝統の形、作り方を継承することに力を入れている。 今や人気のつるし飾りだが、かつて雛のつるし飾りが稲取から消えてしまう、そんな時代もあった。「戦後から昭和にかけて雛のつるし飾りを作る家が少なくなり、このままではなくなってしまう状況でした」と森さん。子供が成人したら、どんど焼きで燃やすのが習わしであったため、古い時代のものはほとんど残っておらず、技術を継承する作り手がいなくなれば、飾りそのものもなくなってしまう。