「スマホを持っているだけで受信料徴収」という恐怖 警戒すべきNHK「放送法改正」の真の狙い
「“スマホを持つだけで受信料徴収”にもっていきたい」
そうした“魂胆”を見抜く上で重要なのが「中期経営計画」の中でも用いられ、また5月の稲葉会長の会見でも発せられた「情報空間の参照点」という文言である。会見で会長は、NHKがネットに参入する必要性を、こう語っていたのだ。 〈放送と同等の正確で信頼性の高い情報や価値を提供し、サービスの水準を高めていくことで情報空間の健全性は確保される〉 〈偏りのない情報をくさびのように打ち込み、NHKが頼りにされるような存在になること、つまりは情報空間の参照点になることが期待された結果ではないか〉 局内の事情に通じる関係者が言う。 「NHKは、今回のネット受信料の導入が直ちに増収につながるとは考えていません。とはいえ先々、スマホなどネットでの『強制受信料』を実現するには“公共の役に立っている”という建前が欠かせない。『情報空間の参照点』という表現には、まさにその建前が凝縮されています。つまり、現在のネット空間は玉石混淆の情報が溢れており、その中でNHKは最も信頼できる情報ソースとなる。よって公共の利益に寄与している――。そんなロジックを構築するには、是が非でもネット配信の必須業務化を実現しなければなりませんでした」 さらに続けて、 「テレビ視聴が廃(すた)れ、ユーチューブやネットフリックス全盛の状況で、上層部の経営理論は『いかにNHKを存続させるか』に尽きます。テレビという受信機に対して支払う従来の仕組みは成り立たず、代わりにNHKという“公共インフラ”を維持するためという名目で受信料を払わせたい。“スマホを持つだけで受信料徴収”という着地点にもっていきたいわけです」(同) すなわち、電気・ガス・水道などの「ライフライン」と同等の価値、位置付けにしたいという野望を秘めているのである。
「司令塔」に聞くと……
“情報空間の参照点”というキーワード考案に携わり、その旗振り役となっているのは、局内の中枢である経営企画局と人事局の専任局長を兼ねている市川芳治氏だという。 「市川氏はこれまで報道や制作といった放送畑との関わりは少なかったものの、英国のロースクールを卒業して法律に精通しており、東大や慶大で教鞭を執りながら専門書も著しています。総務省の上層部ともじっこんで、放送法の改正では中心となって動いていました」(前出の関係者) いわば“公共インフラ”化を推し進める「司令塔」ともいえる当人に聞くと、 「どのような経緯で私にご連絡を頂くに至ったのかは分かりませんが、(『情報空間の参照点』とは)半年以上の議論の末、経営決定された現在の『経営計画』に記載されている考え方です」 と言うばかり。そこで、あらためて局に聞くと、 「経営方針については、中期経営計画等で公表するとともに、記者会見などで説明している通りです。なお、スマートフォンやパソコンを所有しているだけで受信料負担を求めることはありません」(広報局) 近い将来の「スマホで受信料強制徴収」の思惑を見透かされて警戒されないよう、こう強調するのだが、それも今だけであろう。 後編「エース級が次々と退職のNHK社会部で何が起きているのか 『国会議員に配慮し牙を抜こうとしている』」では、“スマホ所有者強制徴収”実現のため、調査報道を行う社会部の影響力を減らそうとするNHKの思惑について報じている。 「週刊新潮」2024年8月8日号 掲載
新潮社