ちゃんみなさん、坂口涼太郎さん…貴重な瞬間、謙遜や自己卑下で、本心をないものにしない。「欲しいものには欲しい」と言おう
貧困家庭に生まれ、いじめや不登校を経験しながらも奨学金で高校、大学に進学、上京して書くという仕事についたヒオカさん。現在もアルバイトを続けながら、「無いものにされる痛みに想像力を」をモットーにライターとして活動をしている。ヒオカさんの父は定職に就くことも、人と関係を築くこともできなかったそうで、苦しんでいる姿を見るたび、胸が痛かったという。第66回は「この瞬間は二度と戻らない」です。 * * * * * * * ◆脳の普段使わない部分が歌声に共鳴 現実は、退屈な毎日の連続だ。でも、そんな日々を明るく照らしてくれるような夜に、最近出逢った。 先日、約1年ぶりにちゃんみなのライブに行った。ちゃんみなは私が大好きで、すっかり魂を奪われているラッパー、シンガーだ。 ライブが始まった瞬間から勢いよく心臓を掴まれて、そのあとも驚きと感動が次々に押し寄せ、頭を殴られるような感覚になり、息をつく暇もない。 ちゃんみなの存在は、強烈で眩しく、鮮烈でまばゆい光を放っている。なんとも鮮やかであった。彼女は、直視したら角膜が焦げてしまいそうな強烈なスポットライトが本当によく似合う。 いつも音源超えと言われる彼女の生歌だが、その日は特別すごかった。高音が鋭く、人類が出す声とはとても思えない。脳の普段使わない部分が歌声に共鳴する。脳の中心部分を射貫かれるような感覚になる。甘ったるい声、吐息が漏れるようなささやき、張り上げたときの迫力のある声、がなり声、ラップ。それらを自在に使い分ける。
◆まとうオーラその全てに虜になる 伏し目から前をカッと見据えたときの静かな迫力。男性のダンサーに抱きついて甘えるような目でこっちを見たときのドキッと、ハッとさせられる婀娜な様。片方の口角を上げていたずらっ子っぽく笑ったときのキュートさ。挑発するような表情の痺れる程の格好良さ。コロコロと変わる表情、まとうオーラ、その全てに、虜になる。 毒々しく、でもとてもロマンチックでドリーミーで、現実と虚構のあわいにいると錯覚する。気が付くと彼女の創り出す世界観に飲み込まれ、どろどろと溶けていく。 ちゃんみなの舞台演出のクオリティには定評があるが、若者の「マインドアイコン」とも言われるメッセージ性と、それを体現する姿勢も注目と尊敬を集めている。 2曲目に披露された『RED』は、韓国とのミックスルーツである彼女が、母親に向けられた人種差別の体験を歌詞にしたものだと思われる。「わかるだろお前だってRED」「皮一つ違うだけで」と言った歌詞が出てくる。人種や国籍が違っても、肌の色は違っても、皮を剥がせば、流れる血の色は同じ。そんなメッセージだと受け取った。 パフォーマンスはちゃんみならしいとてもハードな仕上がりで、身体をくねらせ踊りながら歌う姿は実に格好いい。しかし、歌詞中に飛び出す人種差別の言葉はとても鋭利で、それが子どもだった彼女にとってどれだけ過酷な体験だったのだろうと思わされる。 そんなことを思うと、表現に昇華されたどうしようもない痛みの断片が、私の皮膚や細胞を透過して心に伝わってきて、涙が滲む。