「運転中なら、安全なところに停めて話を聞いてください」32歳のある日、妻が緊急事態。5歳の娘を抱えた夫の衝撃
夏子さんの勤務地は、相当の遠隔地で有期雇用。夏子さんと知也さんは超遠距離恋愛になります。移動には飛行機が必要で気軽に行き来できる場所ではありません。 「離れるのは考えられないし、一緒にいるために結婚しよう、と自然に2人とも思いました。私が定職についていないので、きっと夏子のお父さんは反対するだろうと覚悟を決めて挨拶にいきましたが、『真面目すぎる夏子が一人で研究していると根を詰めすぎて心配だ。君のようなおおらかな人がそばにいたほうがいい』と意外にも祝福してくれたんです。あれは嬉しかったですね」 かくしておふたりは予想よりも早く結婚生活をスタート。知也さんは引っ越し後も、主夫として活躍。数年後、夏子さんがお子さんを授かります。 「まだ若く、研究もこれからというタイミングでしたので、妻はぎりぎりまで出勤し、生後1年を待たず職場に復帰しました。私も子どもを抱っこひもに入れて昼間からスーパー、病院、どこでも行くので、田舎では珍しくてものすごく目立っていたようです。ちょっとあのおじさん大丈夫? 怪しい人? みたいな目で見られたりもしましたが、思えば育児に専念できるかけがえのない日々でした」 男性がお子さんを連れて家事を担う姿は、東京では目を引くことはないと思いますが、当時のその小さな町ではさまざま憶測する人もいたそうです。団地の私道を、赤ちゃんを抱っこして昼間に歩いていると、四方八方の窓から視線を感じたとか。 しかしたとえ人とは違う役割分担だとしても、知也さんと夏子さんはごく自然に、タイミングととらえて柔軟に家庭を運営しました。 お子さんが4歳になった頃、東京の大学で夏子さんにステップアップのチャンスが訪れ、一家で引っ越しすることに。ちょうど知也さんがコツコツ続けていたサイト運営が軌道にのり、買い取ると名乗りを上げる企業が現れました。知也さんはその会社で社員になり、共働き夫婦となります。
ようやく金銭的に安定したものの…
「あれ? これって今でいうパワーカップルなんじゃないの!? なんて冗談で僕が言って、彼女がツッコミを入れて、娘が意味も分からずきゃっきゃとはしゃぐ……そんな平和な毎日でした。 夏子は真面目で、夜遅くまで論文を書いたり、調べ物をしたりしています。そういうところがかっこいいなと思って、そんな彼女と娘をようやく金銭的な意味でも支えられるようになって嬉しかったですね」 知也さんのお話からはとにかく家族に対する愛情と気遣いが感じられ、パワーカップルのくだりも思わず声を出して笑ってしまいました。 ところがその平穏は、ある1本の電話で激変してしまいます。
佐野 倫子