韓国のベストセラー作家イ・スラが“家女長“の視点で語る未来
スラ:文体のリズムを一番大切にしました。ずっと読んでいたくなるような、書き手の声が聞こえてくるような文章を意識しました。同じテーマを扱っても、その作家によって発せられる声は違い、それぞれに独特の響きを持っています。そういう自分にしか出せない“声”を追求していきたいですね。
20代の頃に子どもたちに文章を教える教室を運営していました。私自身も文章の作成と朗読をしていたのですが、長文だとすぐに飽きてしまう子が多かったんです。それで、短く簡潔で、なおかつ面白おもしろく伝えることを意識していました。こうした工夫がリズムの良い文章を書くことに繋つながったのかもしれませんね。この本を通じて、読書が身近でない人たちにも楽しさを感じてもらえたら嬉しいです。
――この作品を書くうえで、影響を受けたものはありますか?
スラ:子どもの頃に祖父と一緒に見た韓国の家族をテーマにしたドラマ、や日本の「逃げるは恥だが役に立つ」からインスピレーションを得ました。家事労働は報酬を伴う専門的な仕事であると、このドラマを通して強く実感しました。
限られた登場人物たちの中で物語が展開するという点では、アメリカのシットコム(シチュエーション・コメディ)「オフィス」が参考になっています。現実では問題に直面すると立ち直るまでに時間がかかりますが、シットコムの主人公たちは常に新しい出来事が常に起こるため、立ち直りが早く前向きです。どんな人にも弱さはありますがその部分はあえて描かない、積極的に未来を切り開く物語が好きです。
――現在は、ドラマ化が決定した「29歳」 の脚本を執筆されているそうですね。原作に近いもの、あるいは派生物として新しい発展があるのでしょうか?
スラ:予定よりも少し時間がかかっていますが、来年にはキャスティングに入りたいですね。原作には、主人公が乗り越えるべき大きな葛藤はありませんでしたが、ドラマでは主人公が予想外の困難に立ち向かう様子や、家族の興味深い秘密が次第に明らかになっていく展開を描くことで、物語に深みを持たせるつもりです。