インターネット時代でも「広くあまねく見られない」コンテンツがあっていい【鈴木おさむ×阿武野勝彦】
「井の中の蛙」だから到達できるものがある
阿武野:「広くあまねく」のあり方も変わってきていると思います。私も、名古屋でドキュメンタリーを作って名古屋ローカルで放送することについて考えたことがあったんですけど、永六輔さんと『時代の肖像 永六輔ドキュメンタリーの旅』という番組で取材旅行をした時、永さんがこんな話をしてくれました。「井の中の蛙、大海を知らず」って荘子の言葉があるけど「この言葉に下の句があるのを知ってる?」って。どうやら日本人が後でつけ足したようだけど、それは「井の中の蛙大海を知らず。されど天の高さを知る」と続くんだ、と。名古屋という井戸の底で、何を見つけられるか……そういうふうに視点を変えるというか。 「ローカルでの放送のみ」という井戸に「押し込められて」いることによって、たとえば映画化という形をとったらどういうことが見えてくるか。つまり、自分たちがどういう場所にいるのかを知った上で、表現のあり方を深めていったら、意外と世界に通用する表現ができる瞬間が訪れるのでは――と思ったりします。まだ、できてはいませんが。 ◇続く後編〔見る人を信じているコンテンツが強い。「過剰なわかりやすさ」は作り手の惰性【鈴木おさむ×阿武野勝彦】〕では、ナレーションやテロップを多用した「わかりやすい」コンテンツが増えていることについて、おふたりの率直な思いを語ってもらった。 『いもうとの時間』は2025年1月4日(土)よりポレポレ東中野、ヒューマントラストシネマ有楽町にてロードショー!
稲田 豊史(ライター、コラムニスト、編集者)