「STAP細胞」は何がすごいのか? 世界の科学者はこう見る
1月29日、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の研究チーム(研究ユニットリーダー・小保方晴子さん)が「体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見」したと発表しました。これは2012年にノーベル賞を受賞した山中伸弥(京大教授)が作製したiPS細胞(人工多能性幹細胞)とは異なるアプローチで体細胞の万能細胞化を実現させた画期的な手法です。それはどのようなものでしょうか。
「分化した細胞は変化しない」という常識覆す
研究チームが発表した細胞は「刺激惹起(じゃっき)性多機能性獲得(STAP=スタップ)細胞」といいます。これは「細胞外刺激による細胞ストレス」によって、動物の体細胞の分化の記憶を消去し、万能細胞へと初期化させる方法です。 細胞外刺激の方法は、酸性の溶液に浸すというもの。酸性水溶液に浸すだけで、細胞がもつ分化のメモリがリセットされるという発見は画期的なものでした。理研のリリースでは次のように説明されています。 「哺乳類の発生過程では、着床直前の受精胚の中にある未分化な細胞は、体のすべての細胞に分化する能力(多能性)を有しています。ところが、生後の体の細胞(体細胞)は、細胞の個性付け(分化)が既に運命づけられており、血液細胞は血液細胞、神経細胞は神経細胞などの一定の細胞種類の枠を保ち、それを越えて変化することは原則的にはありません。即ち、いったん分化すると自分の分化型以外の細胞を生み出すことはできず、分化状態の記憶を強く保持することが知られています」 この常識が覆されたのです。世界中の科学者もこの研究成果に注目するようになりました。
酸性条件が細胞のリプログラミングを誘導
「酸性条件が細胞のリプログラミングを誘導するのは驚くべきことです。ただ、実際のところSTAP細胞は(幹細胞の重要な性質である)自己再生能力が限定されているので(ES細胞やiPS細胞と異なり)、本当に幹細胞と呼ばれるべきではないでしょう。その上、特徴的な遺伝子の発現や分化できる細胞の種類において、STAP細胞はES細胞やiPS細胞と比べて多くの点で異なっています。それにもかかわらず、少なくとも多能性に関する性質は持っているようです。そのため、ES細胞やiPS細胞とさらに似た状態にできることを示すことも重要になります。 本当に興味をそそられるのは、どのようにして酸性条件がリプログラミングの引き金になるのか、ということです。つまり、レモンや酢、コーラを飲んだときになぜ起こらないのか? ということです」(ロビン・ラベル=バッジ教授 英MRC国立保健研究研究所、幹細胞生物学と発生遺伝学部門の部門長)