子どもや外国人を阻む「漢字の壁」、読書の世界広げる「ルビ」普及に取り組むネット証券創業者 私財1億円で財団設立、無料ソフトを年内配布
読書好きの子どもに立ちはだかるのが漢字の壁だ。ふりがなが振られていれば児童書を飛び出すことができ、本の世界を広げられる。日本に暮らす外国人もひらがなは読めても漢字は難しい場合が多い。行政のウェブサイトや手続き書類は外国語版があるのが望ましいが、それがなかったとしてもふりがなが振られていれば多少は理解しやすくなるだろう。 そうした社会のハードルを取り払おうと、インターネット証券大手マネックスグループ創業者の松本大会長が2023年5月下旬に「ルビ財団」を立ち上げた。1億円の私財を投じてウェブサイトや出版物などにふりがなを普及させる活動を進めている。金融市場を舞台に巨額の取引を手がけてきた松本さんが、金融とはかけ離れた社会貢献に踏み出した背景を探った。(共同通信=越賀希英) ▽壁一面の本棚、子どものころの読書体験がきっかけ 松本さんは東大法学部を卒業後、ゴールドマン・サックス証券などに勤務し、1999年にマネックス(現在のマネックス証券)を創業した。2023年6月にマネックスグループの社長を退き、現在は会長として新規事業や暗号資産関連事業などを担当している。 財団の名前にもなっている「ルビ」は漢字の脇に付けられた読み方を示すふりがなのこと。宝石の「ルビー」が語源で、活版印刷の文字の大きさに由来するという。
松本さんがこの活動を始めたきっかけは、子どものころの体験にある。両親は出版社に勤務しており、自宅の部屋には床から天井に届くほどの本棚が壁一面にあった。親の配慮からか、本棚の下段には漢字にふりがなが振られたさまざまな分野の本が並んでいた。絵本や江戸川乱歩の「怪人二十面相」、世界美術史、科学…。 松本さんは理科が好きで、園芸の本がお気に入りだった。日照時間によるイチゴの育ち方の変化や、実験装置の組み立て方といった内容を興味深く読んだ。「ルビのおかげで漢字でつまずかずに読み進められたことは、成長の過程において大きかった。興味の幅を広げてくれた」と振り返る。 ▽大人と子どもで出版物を分けるのは「愚民政策」 日本語は漢字が読めなければ内容を理解するのは難しく、アルファベットのみで書かれた英単語と比べて辞書を引くのにも苦労する。松本さんは今、昔に比べるとふりがなの振られた本が減ったと感じているという。「読めないと頭に入らず、考えることをやめてしまう。読めるということが大切で、ルビがないことの弊害がいかに大きいかに気付いた」と語る。 自分の年齢や学年に合った本では満足できない子どもにとっては、漢字にふりがなが振られていれば、もっと難しい内容の本をどんどん読み進め、能力を開花させることができるだろう。松本さんは「大人向け、子ども向けと出版物を分ける考え方こそ愚民政策につながる」とも批判する。愚民政策とは、為政者側が政治的な問題などに知識や関心を向けさせないようにして、批判する力を弱めようとすることだ。