【解説】万博をめぐる混乱の2023年 ①『協会頼み』で費用ばかりが増大 ②国・府・市と責任の所在見えず ③『タイプX』は大量発注が裏目に 課題噴出の原因は事実上働かなかったチェック機能の問題か
今年1年を振り返ると、大阪の最大の行政課題は「万博」の1点に集約されるといってもいいでしょう。 経済浮揚を謳って華々しくPRされた大阪・関西万博は夏以降に突如、海外パビリオンの建設遅れや大幅な費用の増額が発覚しました。切り札として浮上した箱形のプレハブのパビリオン「タイプX」も不発に終わりそうな情勢です。 なぜ重要な情報は明かされず、また政治的なチェック機能は働かなかったのでしょうか。
■大量の「先行発注」が裏目に 資材キャンセルに十数億円かかるか
費用が上振れした万博をめぐる混乱は、2023年末になっても続いています。海外パビリオンの建設の遅れを受けて、経済産業省が参加国に提案していた簡易なプレハブの箱形パビリオン「タイプX」について、実際に採用するのはブラジルなど最大で3か国にとどまり、先行発注した資材のキャンセルに十数億円かかる見通しが発覚しました。 関係者によると、上記の最大3か国に加え、各国が共同利用できるパビリオンなどとしても6棟のXを計画していますが、半分以上のXの資材はキャンセルせざるをえなくなりそうです。 新たな費用が発覚するたびに、批判が集中する万博。「みんな、大変な思いで頑張っているんだが…」と、万博協会幹部は暗い表情をのぞかせました。
■参加国の予算不足に知事側近「これはまずい」
一連の問題が表面化するきっかけは、今年の5月。関係者への取材を総合すると、吉村洋文氏のもとで副市長・副知事を歴任してきた側近の田中清剛氏が5月上旬に「副事務総長」として万博協会へと送り込まれました。建設業界に詳しい田中氏はこの時初めて、資材や人件費の高騰の影響などで参加国が予算不足に陥っていて「海外パビリオンの建設準備」が行き詰まっているという状況を把握しました。 「これはまずい」 田中氏は直接、吉村知事に事態を報告。すると吉村知事は「では、僕から首相に伝えましょう」と答えたと言います。そのタイミングは、吉村氏らが5月末に岸田総理や担当大臣との面会を予定していた数日前のことだった、とされています。 その後、ようやく担当省庁が動き出します。6月には経産省が建設業界に対し「建設が開幕までに間に合わない場合、国際博覧会として成立しなくなることが危惧される」など、切実な文面を送ってパビリオン建設に協力するよう求めました。ところが、そんな動きもむなしく、「必要な許可申請の遅れ」「予算不足」「パートナーとなる建設業者の不足」と、たたみかけるように課題が噴出しました。 8月末には岸田総理が閣僚ら関係者を一堂に集め、「(万博が)極めて厳しい状況に置かれていることを改めて直視し、正面から全力で取り組んでいかなければならない」と発破を掛けました。「発破を掛ける」とは「荒々しい言葉で督励する」という意味ですが、そんな励ましの声に水を差すように2か月後、夢洲の「会場建設費」を1850億円から2350億円へ、大幅に増額する必要があることが万博協会から公表されました。 万博への批判の声が猛烈に高まっていきました。