虐待を受けた子供たちに「当たり前の生活」を ――児童養護施設長インタビュー
――そこはなぜでしょうか。誤解や偏見があるんでしょうか。 麻生:誤解とか偏見があるかどうかはわからないんですけど、(児童養護施設が)充分知られていないというのはあると思います。児童養護施設に、一体どういう子供が入っているのかも知られていなくて、時として「非行を犯したりするようなお子さんがいるんですか」という質問も受けることがあります。児童養護施設出身ですと言うと、「なにか昔やったんですか」ということがあったりもします。 親がいれば、両親がいて、あるいは親戚がいて、近所の人がいて、友人がいて、バイト先の知り合いがいて、先輩がいて・・・社会の接点とかつながりって普通何本があると思いますが、施設にいる子供たちはそれが非常に少ないと思うんです。まずはその頼っていける親がいないという事から始まり、そうすると親戚づきあいもほとんどありません。コミュニケーションの力が弱いと友人との関係も薄くなってくる。そうすると少ない社会との接点が1本切れるとあっという間に下まで落ちていってしまい、残念ながらあっという間に生活保護を受けなければ暮らしていけなくなったり、時には住むところを失ってホームレスになったりしていくケースもあります。家がないので、就職をするときに寮がある会社に入る子が非常に多いんですが、そうすると仕事を辞めるイコール住む家も失うということになってしまいます。 児童養護施設にいる、あるいは社会的養護を受けているということで18歳での自立を強いられているという状況なので、少なくとも本人が充分力を蓄えて、「よし1人でがんばるぞ」と思えるまでは社会が十分保護してあげるような仕組みができたらいいなとおもっています。
地域の中の施設として
麻生:施設の中で子供たちはよく本当にがんばっていますから、そのがんばっている姿、あるいはその苦しんでいますから、苦しんでいる姿、それを多くの人に知ってほしいと思っています。 私の施設で、地域のお父さんお母さんに本当によくしてもらうんです。 運動会があると、「おかず多く作ったら持っていきな」と言ってもらったりすることもありますし、「うちで今度みんなでプールに行くから一緒にどう?」と言って、一緒に車でプールに行かせてもらうこともあるんです。地域の人たちにまずはもっと知ってもらい、それがもっと輪が広がっていくと、現状がより正しく伝わっていって、誤解とか偏見あるいは無理解などもなくなっていくのかなと期待をしています。