新潟県・片貝まつり―「世界で一番幸せな花火」の物語
日本の「原風景」が残る町
片貝まつりでは小中学生も地区の玉送りに参加するので、お盆休み以降は地域や学校などでシャギリの練習に明け暮れる。子どもの頃からこうした体験を積み重ねるので、祭りのある日常が当たり前になっていく。 祭りの2日間は200軒もの屋台が並び、普段は静かな町が一気に熱気を帯びる。「祭りが近づくと、もう、そわそわしてね。1年で一番の楽しみだった」。片貝まつり実行委員会委員長を長年務める吉原正幸(74歳)は目を細める。
都市化、少子化・高齢化が進み、全国的に地域の共同体意識が希薄になっている。片貝まつりの伝統が連綿と続いているのは、生活の中に祭りとその関連行事が深く根を張っているからだ。さまざまな地域で独自の伝統的な通過儀礼が消失していく中で、成人玉送りのような荒っぽい儀式も継承してきた。 もちろん、片貝でも若者の数は減少している。戦後のベビーブームでは200人いた片貝中学校の卒業生も、直近は26人。数が減れば、花火貯金の負担が増し、玉送りなど行事の催行にも影響する。それぞれの代で同級会を抜ける人もいる。ライフスタイル、人間関係などあらゆる面で個人化が進む今、ムラ社会的な空気を嫌う人がいても不思議ではない。 片貝の共同体がどのように存続していくのかは分からない。ただ、日本人の「原風景」というものがあるとすれば、それが残っている数少ない場所なのは間違いない。 本文中写真(小千谷市提供を除く)=篠原匡撮影
【Profile】
篠原 匡 ジャーナリスト・編集者。日経ビジネス記者や日経ビジネスニューヨーク支局長、日経ビジネス副編集長などを経て、2020年4月にジャーナリスト兼編集者として独立。著書は『グローバル資本主義vsアメリカ人』(新潮新書、2009年)、『腹八分の資本主義』(日経BP、2020年)、『誰も断らない 神奈川県座間市生活援護課』(朝日新聞出版、2022年)など多数。