新潟県・片貝まつり―「世界で一番幸せな花火」の物語
「もっと盛り上がれや!」
片貝まつりでは、「玉送り」「筒引き」などの伝統行事も重要な要素だ。 玉送りとは、花火を浅原神社に奉納する儀式のこと。明治初期に、若い衆が各家庭を回って花火を集めて箱に入れ、浅原神社に奉納するようになったことが始まりとされる。今では花火玉は運ばないが、町内6地区の若者が手作りの屋台(山車)を引き回して、神社に向かう。若者だけでなく、各世代の同級会なども玉送りに参加するので、にぎやか極まりない。
屋台を引く人たちが歌う木遣り(きやり)唄、笛や太鼓の「シャギリ」(おはやし)も見どころの一つ。また、筒引きは花火の打ち上げ成功と無事を祈り、三尺玉の打ち上げ筒を引き回す儀式である。 20歳を迎える同級会が6地区を練り歩く「成人玉送り」は、若者が地域で大人として認められるための通過儀礼。各地区の境界でそれぞれの「支部長」が立ちふさがり、その許しを得られなければ、次の地区に進めない。支部長もかつて同じ試練をくぐり抜けた先輩たちだ。
許可の基準は、祭りを盛り上げているかどうか。同級会の「接待役」が注いだ酒を、支部長が飲めば地区を通過してもいいという合図だが、なかなか飲んでくれない。 「お願いします!」「通らせてください!」 「しっかりやれ!」「もっと盛り上がれや!」 そんな押し問答が1時間近く続き、ようやく通行の許しを得ても、次の地区で再び支部長と対峙(たいじ)しなければならない。結局、新成人が浅原神社に奉納するのは、夜8時近くになる。
「成人玉送り」を経た若者の中には、主に片貝まつりの運営を担う「若連合」に参画する者もいる。今年、「祝長女 爆誕」の花火を奉納した長原魁は、昨年まで若連合のトップを務めていた。 「トップは運営の責任者として大忙しで、まともに花火を見ることができません。特に、去年は大変でした。妻が出産間近だったので、気が気じゃなかった。娘が生まれたのは祭りの2日後。今年は久々に花火を存分に楽しめました」