燃え殻さんエッセイ 母に「恥ずかしくて…」と言わせてしまった僕の罪 「疲れた夜に寄り添う」日々の記憶と家族
ライブが始まると、最初のほうだけは、音の大きさや演出の火花などに怯えていたが、その後はずっと「すごいね、すごいね」を繰り返しながら、最後まで少女のように楽しんでいた。若い人たちの拍手に負けないくらいの拍手をしている姿を見たとき、思わず目頭が熱くなる。そんな僕に気づいた母から、「しっかりしなさい」となにを励まされているのかわからない励ましを受けた。 あの冬の日。横浜郊外の病院で、ベッドに寝ていた母のことを、僕は思い出していた。あの日、母の手はとても冷たかった。母の冷たい手を、僕は手繰るように握った。すると母はゆっくり片方ずつ目を開ける。
『BE:FIRST』を一瞬も逃すまいと見つめている母がもう一度、「すごいね、すごいね」と言いながら、大きく拍手を繰り返していた。
燃え殻 :作家