学校で先生が教える部活はなくなるか 驚きの部活改革プラン
浅川さんと契約している杉並区教育委員会の小林淳・学校支援課係長にも話を聞いた。 杉並区では2013年から競技経験の全くない顧問に対し、スポーツ指導の資格などを持つ専門コーチをつける「部活動活性化事業」を実施している。浅川さんもこの取り組みの一環でコーチをしている。2017年は区内の中学校23校のうち、19校・43の部活にコーチを派遣している。平日の部活指導に加え、土日の指導のほか、公式試合に帯同もする。ただ、試合については引率できないので、顧問も来なければならない。2016年度はこの取り組みに3000万円の予算をつけた。 小林さんは課題について、中学校体育連盟が運営する大会に出場するためには、学校で行っている部活であることが条件になっていると説明。「区や都の大会に出るためには、形式として部活動でなければならない。クラブでも大会への参加が認められるということが必要になる」と指摘する。 また、「国家資格を取ってまでスポーツの指導をやろう、という人材を探すのはおそらく地元になる。杉並区でお願いしているコーチは、本業を持っている人なので難しいだろう。現実に今学校を支えてくれている人をみる限り、国家資格を取ってくれるような人材がいるようでいない」と説明。コーチのほかにも、競技経験がある地元の退職者や大学生といった人を、区内に250人ほど確保しているが、顧問に代わって部活動を担うのは難しそうだという。 学校というベースがあって外部指導者が入っている事例は進みつつあるが、部活を学校ではなく地域でやるためには超えなければならないハードルも多そうだ。
期待の声もあるが…
一方で、検討されている部活のあり方に期待を持つ人もいる。部活動指導による教員の多忙化の問題を研究してきた名古屋大学の内田良・准教授は「これまでは素人の先生が部活を担っている場合もあり、安全性の面でも問題があった。地域の外部指導者を入れる流れの中で、部活の指導をする人に国家資格をとってもらい、きちんとスポーツ科学をわかっている人に子どもたちが指導してもらえるようになるなら良いのではないか」と話す。 ただ、「部活そのものの活動規模、つまり練習日数や時間数、大会参加数を大幅に削減しなければ、資格制度の創設だけではうまくいかないのではないか。現状の活動規模では、そもそも人材も回らないし、見つからない。制度創設にあわせて部活のあり方を改革することが必要だ」と指摘する。 内田准教授によると、総合型地域スポーツクラブへの移行は、2000年代にいくつかの地域で進められたものの、いずれも失敗に終わっているという。「競技」の論理のまま、学校からの移行を画策したので、うまくいかず、実態としては教員が指導する部活動が継続されてしまった。 成功するためには、まず、部活動の活動総量を規制し、週に2~3日にして、それを総合型地域スポーツクラブのかたちで引き受ける、どうしても強化選手レベルのトレーニングをしたい生徒は、民間のスポーツクラブで練習するといった制度設計が必要になるという。内田准教授は、「実際に今日のトップアスリートの多く、とくに水泳、フィギュアスケート、サッカー、卓球などは民間で育っている」とし、「教育」(総合型地域スポーツクラブ)と「競技」(民間のスポーツクラブ)を分ければ成功への道は開けるとした。 スポーツ庁政策課学校体育室の担当者は、部活動を地域のスポーツクラブに移行する案について「地域との連携というのはもちろん進めていかなければならない」とした上で「いきなり学校での部活をなくす、というのは難しい」と話す。同庁では、5月末から練習時間や休養日の設定、地域との連携など部活動のあり方そのものについて議論を始めており、年度内にガイドラインとしてまとめる。 (取材・文/高山千香)