高知ユナイテッドSCは「Jなし県」を悲願の舞台に導けるか? 「サッカー不毛の地」高知県に起きた大きな変化
10日6日、来季のJ3昇格を懸けたJFLの天王山が行われる。直近10戦無敗の2位・栃木シティをホームで迎えるのは、今季開幕7連勝を達成した1位・高知ユナイテッドSC。これまで「Jなし県」「サッカー不毛の地」とも呼ばれてきた高知県において、高知ユナイテッドSCはいかにして全国リーグのJFLに辿り着き、今季首位の座までに上り詰めたのか? (文・撮影=宇都宮徹壱)
4年ぶりに訪れた「Jなし県」高知の変化
高知県立春野総合運動公園陸上競技場は、ペーパードライバーの私にとって全国でも五指に入るくらい、アクセスの難易度が高いスタジアムである。 かつて、JFLの昇格を決める全国地域リーグ決勝大会(現・地域CL)の会場として訪れた時は、1時間間隔でバスが出ていた。ところが4年前の天皇杯で訪れた時には、人口減少の影響で路線そのものが廃止となってしまう。高知駅から春野までは、タクシーで30分ほどかかり、料金は片道4000円。爪に火を灯すようなフリーランスにとって、この金額はつらい。 4年ぶりに春野を訪れた理由。それは現在、JFLで首位を爆走し続けている、高知ユナイテッドSCのホームゲームを取材するためである。 現地を訪れた9月15日、第19節を終えた時点で高知は14勝2分け3敗の44ポイント。2位の栃木シティFC(以下、栃木C)とは10ポイント差を付けていた(ただし1試合少ない)。理由はのちほど述べるが、正直、この展開はまったく想像できなかった。 この日は、10位のFCティアモ枚方との対戦。元日本代表の二川孝広監督に率いられたチームは、個々の選手の技量が高く、高知が押し込まれる時間帯が続いた。38分にはPKを得て、小林心の右足で先制するも、枚方も57分にバジルのゴールで同点(こちらもPKだった)。結果として1-1のドローに終わり、裏の試合で勝利した栃木Cとの勝ち点差は8に縮まった。 「若いチームなので(昇格の)プレッシャーはゼロではないと感じています。今、僕が考えるべきは、選手のストロングをどれだけ引き出せるか。働きながらプレーしている選手ばかりなので、サッカーが大好きなのは間違いない。だったら、好きなことを思い切りやってほしいし、サッカーを楽しむことで彼らのポテンシャルを引き出せればと思います」 高知出身の46歳、チームを率いる吉本岳史監督の試合評である。今季、開幕から7連勝してスタートダッシュに成功したのは、チームの若さがポジティブに働いたからだろう。しかし、初のJFL優勝とJ3昇格が現実感を増す中、その重圧が選手の伸びやかなプレーを奪ってしまった感は否めない。 高知の好調の理由を求めて、春野まで訪れた私には、いささか肩透かしを食らったような試合内容。それでも4年前と比較して、いくつもの変化を目にすることができた。 まず、高知駅から春野まで、シャトルバスが出ていた(しかもJTB高知支店によるオペレーション)。次に、雨模様だったにもかかわらず、この日の入場者数は2233人だったこと(昨シーズンの平均入場者数は818人)。そして、かつては見られなかった、レプリカを着たサポーターの姿──。長らくJなし県だった高知は、今、大きく何かが変わろうとしている。