『ボーはおそれている』に隠された意図とは?鬼才アリ・アスターの頭のなかを探る
『ミッドサマー』などで知られるアリ・アスター監督がA24とふたたびタッグを組み、大きな注目を集めた『ボーはおそれている』。現在ブルーレイ・DVDが販売中だが、9月13日からAmazon Prime Videoで配信がはじまった。ホアキン・フェニックスが不安に怯える中年男性・ボーを快演した本作について、ライター・稲垣貴俊によるレビューをお届けする。(CINRA編集部) 【画像】『ボーはおそれている』 「みんなが不安な気持ちになるといいな」――柔和な表情とダークなユーモアに満ちた発言、凶暴な作風のバランスで愛される映画監督、アリ・アスター。大ヒット作『ミッドサマー』で知られる稀代の映画監督は、おそらく世間で思われているよりもずっとしたたかで、自らのパフォーマンスにも意識的だ。アスターの言葉はニュースやSNSなどで面白おかしく取り上げられてきたが、それらはあくまでも彼なりのサービス精神だと見るべきだろう。 「映画について語った言葉には後悔しかありません。『この言葉を使って良かったな』と思えたことは一度もないのです」 海外のインタビューで、アスターは自作のプロモーションについてこう語った。観客の映画体験に自分の言葉が影響を与えるようなことはしたくない、なるべく多くを語らないようにしたいと。その意志に従い、アスターは作品の核心や解釈に関するコメントをつねに回避し、自分の意図を曖昧なままにしてきた。 映画『ボーはおそれている』は、『ヘレディタリー/継承』(2018年)や『ミッドサマー』の映画会社・A24とふたたび手を組み、名優ホアキン・フェニックスを主演に迎えた監督第3作。ダークコメディであり、ホラーでもあり、サスペンスであり、ラブストーリーともいえる3時間の大長編は、アスターが「本当に長いあいだつくりたいと思っていた」物語だ。 「自分のやりたいことを自由に詰め込ませてもらった」というだけあって、作品としてのクセの強さ、そして難解さは史上屈指。その深奥に分け入って、鬼才アリ・アスターの頭のなかを覗いてみよう。 ※本記事には映画『ボーはおそれている』本編の内容に関する記述が含まれます。