【首都大学リポート】果敢な本盗で決勝点 妹のためにも野球を続ける帝京大・島野圭太
「セーフになった瞬間は『ウワー』って感じでした」
【9月14日】首都大学一部リーグ戦 帝京大6-2桜美林大 (帝京大1勝) 首都大学リーグ第2週1日目。開幕週、城西大に連敗を喫した春の王者・帝京大は桜美林大と対戦した。決勝点は島野圭太(4年・履正社高)の果敢なホームスチールから生まれた。 2対2の同点に追いついた7回表。さらに二死満塁のチャンスで三塁ベース上にいた島野はピッチャーの隙をついてスタート。ホームへヘッドスライディングで滑り込むと、キャッチャーが必死に伸ばしたミットよりもはやくベースに到達して、間一髪セーフ。貴重な勝ち越し点を奪い取った。 「ホームスチールをするのは人生で初めてでしたし、練習をしたこともなかったので心臓はバックバクでした。ただ、相手の投手は足をゆっくりと上げることが分かっていたので『行ける』と思い、三塁コーチの渡邉諒介コーチに確認をしてから狙っていきました。セーフになったのはデータ班のおかげです」 この決断を下したのには理由がある。第1週の城西大戦では2試合ともに終盤で追いつく粘りを見せたが、結局、競り負け。 「同点にはできたのですが勝ち越すことができなかったので、このままでは城西大戦とまた同じ展開になってしまうと思い、なんとか勝ち越したいと考えていました。セーフになった瞬間は、もう『ウワー』って感じでした」 この夏はチームとして「毎試合、打てるわけではないので、ノーヒットでも得点が奪えるように練習してきました」というが、その姿勢を体現する大きなワンプレーとなった。 島野の本盗で勇気づけられた帝京大は打線がつながり、一挙に6点を奪う猛攻を見せて6対2で桜美林大を下し、今季初勝利を挙げている。この試合で島野は犠打がヒットになった1安打に加えて、2つの四球を選んで3度の出塁を果たした。 「出塁率の高さは持ち味。自分が出塁すれば得点も入りやすくなると思っています」
指揮官と合う野球観
打順は開幕時の二番から一番に上がっていたが「小学生の頃からずっと一番か二番を打っていたので、どちらも慣れている打順です。一番の時はチームに勢いをつけるために積極的に。二番は状況を見ながら三、四番につないでいくことを意識しています」と話す。 唐澤良一監督も「島野は野球観が良い。私と感覚が合っているので『ここは走っていい』と思っているときは走るし、逆に『動くな』という時は走らない。『ここは待て』というときも打たない。フォアボールも多いですし、泥臭くて派手さはないかもしれませんが、社会人野球へ行っても絶対に通用する選手。だから、たとえ打てなくても島野は外せない」と太鼓判を押している。 島野との出会いは中学時代までさかのぼるそうで「島野が所属していた大淀ボーイズが全国大会に出場したときに室内練習場を貸したことがあったんです。そのときにゴロを捕っているところが目についたんですが、彼は抜けていました。それからは履正社高にも通って、成長していく姿を見ていました。高校ではコロナ禍で夏の甲子園が中止になり、交流試合だけだったこともあって帝京大へ入ることになったんです」と早くから惚れ込んでいた。 帝京大では1年時からリーグ戦に出場し、2年春は一部で一塁手、秋は二部で遊撃手としてベストナインを受賞。今春は一部に復帰し、そのままリーグ制覇を果たした。ただ、島野は打率が1割台と低迷。そこで、シーズン前は「唐澤監督から教えていただき、トスバッティングでワンバウンドのボールを打つ練習をしてきました。このおかげでヘッドが出やすくなり、タイミングが合うようになりました」と開幕から3戦連続安打を記録している。 島野は3きょうだいで兄の凌多さんは大阪桐蔭高で甲子園に出場し、龍谷大の野球部では主将を務めた。妹の愛友利さんは18年のジャイアンツカップで男子選手に交じってプレーして胴上げ投手となり、神戸弘陵高では全国制覇。現在は読売ジャイアンツ女子硬式野球チームに所属している。 「妹がいなかったらもう野球はやめているかもしれません。妹からはバッティングについて聞かれることが多いんですが、兄は引退しているので、自分がアドバイスをするためには野球を続けていなければいけないんです」 卒業後は社会人でプレーすることが内定している妹思いの兄はその前に、大学ラストとなる今シーズンで「もう一度、一部でベストナインを受賞して、リーグ優勝。そして、日本一になりたい」と唐澤監督に恩返しをするつもりだ。 文=大平明
週刊ベースボール