当事者が危険に気づけない“手なずけ行為”―子どもの性被害を防ぐため今刑法改正が進んでいる理由 #性のギモン
「“手なずけ行為”はいけないこと」法制化によって大人も子どもも知る機会に
――昨年10月から“手なずけ行為”そのものを法で規制することが検討されているそうですね。 上谷さくら: 実際の被害である性行為に至る前、準備の行為も罰する必要があるということで、刑法改正が検討されています。2022年10月に試案が出され、今年1月17日の法制審議会では”手なずけ行為”にあたる行為・量刑の具体案が提示されるなど、議論は着々と進んできました。そして直近2月3日の法制審議会では要綱案が取りまとめられ、今後通常国会に提出される予定です。 どこからが“手なずけ行為”にあたるのかを明確に線引きするのが難しく、実際に刑事弁護を担当する弁護士から批判が挙がるなど、特に議論になりました。初めてできる法律ですから、不備があると分かった段階で、実情に合わせてその都度改正していく必要があると思います。 ――犯罪に至る前の行為を規制する、ということで慎重論もあったようですね。 上谷さくら: 例えば、かわいいと子どもを褒めて、頭をなでるのも“手なずけ行為”とみなされるのかといった極端な議論もありますよね。ストーカー規制法のときもそうでした。「別れたいと言われて『別れないで』とお願いすることの何が悪いのか」といった声もありました。まだ法益侵害されていない段階で処罰をすることを危惧する意見もあります。 でも、考えるべきは、行為をする側ではなく、行為をされる側がどれだけ恐ろしい思いをしていて、どれだけ危険にさらされているのか、ということ。犯罪被害者の地位が少しずつ上がるにつれ、そちらに主体が移ってきたという気はしています。 ――“手なずけ行為”を法で規制することの意義について、改めて教えてください。 上谷さくら: 性的搾取を目的とした“手なずけ行為”はいけないということを国民に知ってもらうことが大切です。そして、大人であっても、“手なずけ行為”を気軽にやってしまうと罰せられてしまう、ということを自覚しなきゃいけない。未成年者の皆さんも、自分たちをだます大人がいるということを知る機会になるはずです。 それから、どんな人が被害に遭いやすいのか、社会全体が知ることも大切ですね。家族関係がうまくいっていない、自分の居場所がない、自己肯定感が低いという子が被害に遭いやすい傾向にあります。まずはその環境から助けてあげることも必要です。 中には、行き場のない子どもたちのために、NPO法人を作って一生懸命活動している人たちもいます。でも、やはり国として、子どもたちの居場所を包括的に提供すべきです。刑法改正は、その動きに向けた一つのきっかけになりうるかなと思います。 ----- 上谷さくら 福岡県出身。青山学院大学卒業後、毎日新聞社に入社し記者として事件事故、政治、スポーツなどの取材に携わる。その後弁護士に転身し、犯罪被害者に関する事件、特に性被害、交通事故、殺人、離婚、DV、ストーカーに関する事案に多く取り組む。2020年、法務省の刑法改正に関する刑事法検討会委員に着任。 文:冴島友貴 (この動画記事は、TBSラジオ「荻上チキ・Session」とYahoo!JAPANが共同で制作しました) 「#性のギモン」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の1つです。人間関係やからだの悩みなど、さまざまな視点から「性」について、そして性教育について取り上げます。子どもから大人まで関わる性のこと、一緒に考えてみませんか。