当事者が危険に気づけない“手なずけ行為”―子どもの性被害を防ぐため今刑法改正が進んでいる理由 #性のギモン
現在、性的な目的で子どもたちに近づき親密になる“手なずけ行為”が問題視されている。子どもの性被害を未然に防ぐためには、“手なずけ行為”そのものを法で規制することが必要だとして、2月3日の法制審議会では刑法改正の要綱案が取りまとめられた。性被害やDV、ストーカーの事案に多数関わってきた弁護士の上谷さくらさんは、刑法改正されることで「“手なずけ行為”がいけないことであると大人も子どもも知る機会になる」と語る。上谷さんに、“手なずけ行為”による子どもの性被害の現状や、被害に遭わないための心構えについて聞いた。(聞き手:荻上チキ/TBSラジオ/Yahoo!ニュース Voice)
当事者が気づけない、性的被害につながる“手なずけ行為”
――性暴力やハラスメントにおける“手なずけ行為”とはどういったものなんでしょうか? 上谷さくら: 性的な行為を行うために被害者に近づき、親密になり、信頼を勝ち取ろうとする行為を指します。被害者は相手を信頼してしまっているため、自分が性被害を受けそうになっていることに気づかないのです。近年、信頼した人にだまされ、性被害を受けてしまう人が増えています。 ――具体的にどんなケースを“手なずけ行為”として考慮に入れておくべきなのでしょうか。 上谷さくら: 例えば、家出願望がある子が、「家族との関係がうまくいっていない」とSNSでつぶやくと、親切を装って相談に乗ってくれる大人が現れます。そういう子たちは自己肯定感が低く、優しくされたり、褒められたりするとうれしくなる。その人にもっと気に入られたいがために、言われるままに性的な写真を送ったり、会ってしまうと断ることができずにホテルへ行ったりしてしまうんです。しかも、本人はただ相手を喜ばせたいだけだから、これが性被害だと気づかない。後からだまされたと分かって、大きく傷ついてしまう……ということが増えていると言われています。 ほかに、塾の先生や近所の大学生といった身近な大人が絡む事例も挙げられます。この場合は、信頼関係を逆手に取って行為に及ぶケースが多いです。「以前いろいろと相談に乗ってもらったからお礼をしなきゃいけない」とか、「話を聞いてくれて良くしてくれた。相手が求めてくれるのだから、応えなくちゃいけない」「嫌われてはいけない。良い子でいなくちゃいけない」という気持ちを利用され、性被害を受けてしまうのです。 ――特に、未成年者に対する被害について議論が進められているようですね。 上谷さくら: やはり、未成年者は成人に比べ、判断力がぜい弱です。小中学生だけでなく、大人と同じくらい行動力がある高校生であっても簡単にだまされてしまう。加害者と会ってしまうとその後抵抗することや逃げることがどうしても難しいのです。 ――“手なずけ行為”に対して、子どもたちにどう啓発していけば良いのでしょうか。 上谷さくら: やはり性教育をきちんと行うことです。小中学校の学習指導要領では、妊娠に至る過程は取り扱わないことになっているため、妊娠に至る行為について教える学校とそうでない学校があります。けれど、基礎知識はきちんと教えるべきです。基礎知識を教えず、性行為へ誘う行為だけ気をつけなさいと言ったところで、子どもたちは分からないですよね。だから性行為と、そこに至る過程をきちんと教える。段階を踏んで、教えないと頭に定着しないでしょう。 ただ、性教育をちゃんと勉強している子であっても、彼氏や大人との性行為で「僕は妊娠させない技術があるから大丈夫」等という言葉を信じてしまう。これが難しいんです。知識があっても、その一言が強く残ってしまう。そのため、繰り返し学んでいくことが大切です。