ネコとハト、スパイに向いているのはどっち? 実際に試した結果が両極端すぎる
盗聴器の挿入やカメラの装着など、CIAや英国の諜報機関などがまじめに追求
冷戦時代の高度な利害関係と壮絶な駆け引きの中で、CIA(米中央情報局)は、常に諜報(ちょうほう)活動の難題に直面していた。それは「接触」だ。どのような事態でも、独自の解決策が求められた。厳重に警備されている外国首脳のプライベートな空間に、どうやってスパイを送り込むか。そこには、ごく親しい友人や当人が好きなノラネコしか入れないとしたら? それならば、見えないように盗聴機器を取り付けたネコを送りこんだらどうだろう。 【関連写真】専用カメラを装着したハト、ホントに飛べた!? CIAはこの作戦を「アコースティック・キティ」と名づけた。しかし、作戦の研究開発に5年の歳月と2000万ドル(当時のレートで72億円)を費やしたものの、作戦は1967年に廃止された。その理由はネコを飼っている人なら誰でも予想できるだろう。どの動物でも同じだが、特にネコは指示した場所に行かせ、盗聴装置の受信可能な範囲内にとどまるように仕向けるのは生易しいことではないのだ。 デジタル技術や超小型電子技術が開発される以前、諜報活動は非常に困難を極め、あらゆる可能性が検討された。1990年代に諜報装置を担当するCIA技術サービス局の責任者だったロバート・ウォレス氏は、「20世紀には、人間がアクセスできない場所にこっそりと侵入しメッセージや装置を運ぶ手段として、世界中の諜報機関が動物に注目していました」と振り返る。 今では突飛なアイデアと感じるかもしれないが、CIAはアコースティック・キティ作戦に真剣に取り組んでいた。この作戦は、動物の鋭敏な感覚と周囲に溶けこむ能力に注目して動物スパイを導入しようとする取り組みのひとつで、その成果はさまざまだった。では、優れたスパイ候補となる動物には、どのような資質があるのだろう。現代でも、動物はスパイとしての役割を果たせるのだろうか。
裏目に出たネコの好奇心
アコースティック・キティ作戦では、普通のイエネコとハイテク技術を融合したサイボーグネコを作りあげた。ネコのとがった耳は、ネコが生まれ持つ優れた集音器だ。獣医がちょっとした手術で、その耳の内側に小さな盗聴器を挿入した。そして、マイクをネコのゆるい皮膚の下のバッテリーに接続し、長い毛並みに編みこんだ外部アンテナとつないだ。 この装置はうまく作動し、盗聴ネコは人々の会話を集音し送信することができた。しかし、ここで問題が生じた。CIAによる訓練もむなしく、アコースティック・キティは自分の意思で行動してしまい、ターゲットとする人間の近くに留まることはできなかったのだ。ネコが気を取られがちなハトやリスがいる公園で野外テストを行ったところ、アコースティック・キティは成果を上げることができなかった。 生まれながらの好奇心はスパイとしての適性のようにも思えるが、ネコはそれで命を落とすこともあるようだ。CIAの元職員で批評家でもあるビクター・マーケッティ氏は「アコースティック・キティもそのような最期を迎えた」と語り、この話は広く知られている。アコースティック・キティは最初のミッション、つまり公園での野外テスト中に道路を横断し、すぐにタクシーにはねられて死んでしまったというのだ。 一方、ウォレス氏は「マーケッティ氏の話のほうが、インパクトがずっとありますね」と話す。実際には、このネコはスパイ装置を取り外された後、普通の生活に戻ったそうだ。CIA歴史家のデビッド・ウェルカー氏によれば、CIAはこちらを公式の見解としている。