フランスで始まったエルメスの香水への愛。
私の場合は、たいていのエルメスの香水が好きだ。キーンと冷たい金属のようであったり、知性的な土の匂いであったり、いままで購入に至った香水は圧倒的にエルメスが多い。みんな大好き庭シリーズも3つ持っている。 しかしそれは、「最初に嗅いだ時のこと」が素晴らしい思い出として私のなかに残っているから、ということもあるかもしれない。 その日は、件の友人と話しながらひたすら歩いていたのだが、ふとエルメス本店前を通りかかった時に、「絶対に気に入る香水がある」と誘われて入ったのがきっかけだった。 そこで私は、エルメス初代専属調香師ジャン=クロード・エレナのコレクション「エルメッセンス」に出合った。現在はクリスティーヌ・ナジェルが引き継いだこのコレクションは、私が(差し当たってここまでの)生涯で最もたくさん、何度も何度も繰り返し買い求めたコレクションだ。 しかし最初に、このエルメス本店で対応してくれた女性があんなにもざっくばらんにたくさん話を聞かせてくれなかったら、こんなに虜になることはなかったかもしれない。 その時彼女はコレクションについてひとつひとつの香りを丁寧に説明してくれたうえ、すべての試供品を2本ずつ与えてくれ、私たちはその後家でも好き放題に「エルメッセンス」を楽しむことができた。 その試供品というのは、さすが全ハイブランドの頂点に立つエルメスというべきか、硝子の小さな試験管のような容器に各4mlも入っており、さらにきちんと専用のオレンジの箱にまで入れてくれるという、およそほかの場所ではお目にかかれないような、太っ腹も太っ腹な豪奢な品であった。 それを見て私はエルメスともなればなにもかも違うものだな、と感心したし、みんながあれほど高価な鞄を欲しがる気持ちも少しわかったような気がした。 私にとって「買うまでの時間」は、その香水を愛するためにとても必要なものだ。買った後、日常的には使用しないとしても、どうしても気に入ったものであれば購入するべきだと思う。香水なんて人生に必要ないものかもしれないが、このプロセスを踏んで購入したものは必ず、自分の糧になると信じている。