「改憲」肯定派が多数という調査結果 「9条が自民党を勝たせてきた」政治学者語る
──それは報道の伝え方にも問題がありませんか。 「そうですね。政治報道は今でも1950年代以来の古いフレーミングを続けていて、その伝え方が政治家の意識や行動に影響しているところがあると思います。つまり、憲法の問題を扱うとき、メディアはもっぱら『改憲勢力=右翼、護憲勢力=左翼』という枠組みで報じています。あるいは、護憲、立憲主義、平和主義といった立場を短絡的に結びつけるような報道も少なくありません。でも、憲法を修正すべきかという意見と、右派・左派、あるいは保守・革新という政治的立場には本来、原理的な関係はないのです。言い換えれば、左派の改憲派も、右派の護憲派も本来はありえるはずなのに、そうした視点は報道から外れてしまっています。改憲派=右派あるいは『戦争勢力』といった位置づけの報道がなされている限り、左派的な議員はどのような改憲案であれ反対に回らざるを得ません」 ──結局、選挙では最後に「9条」を問うことで投票を分けられるような状況です。 「9条の問題で政党が分かれてしまっているので、有権者は旧来的な『保守vs.革新』という対立軸で政党を選ぶしかなくなっている。憲法が多くの有権者にとって関心事でないことを考えると、これは非常に不幸な話です」 ──9条という存在が他の論点に関する議論や政権交代を邪魔してきたということですか。 「9条という論点の存在が自民党を勝たせてきたと言えますね。私の見立てでは、9条改正が現実化したときに、自民党の歴史的役割が終わり、一党優位体制は崩れると思います。戦後、非自民勢力が分断されてきた最大の理由は、安全保障の基本的枠組みについて、つまりは憲法9条の解釈について合意がないことにあります。この問題に何らかの決着が付けられれば、野党はまとまって自民党に対抗しやすくなるでしょう。9条問題を解消して初めて『保守vs.革新』という、基本的に保守政党・自民党に有利な土俵での戦いから、野党は下りることができます。軍国主義か民主主義かといった、第二次大戦の残した亡霊のようなイデオロギー対立も過去のものとなるでしょう。そこで本当に『戦後』が終わるのだと思います」
------ 森健(もり・けん) ジャーナリスト。1968年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、総合誌の専属記者などを経て独立。『「つなみ」の子どもたち』で2012年に第43回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『小倉昌男 祈りと経営』で2015年に第22回小学館ノンフィクション大賞、2017年に第48回大宅壮一ノンフィクション賞、ビジネス書大賞2017審査員特別賞受賞。