「改憲」肯定派が多数という調査結果 「9条が自民党を勝たせてきた」政治学者語る
──調査結果から、立憲主義が多くの国民に理解されていないことがわかります。 「結局、多くの国民にとって、立憲主義という概念は言葉として知っていても、血肉になっていないということです。この原理が現実世界で実践されているように見えないことがその一因でしょう。その最たるものが9条で、文言を素直に読んで自衛隊を合憲と読めるかと言えば難しい。政府の解釈はかなりアクロバティックなロジックでできている。だから、多くの憲法学者は違憲と言ってきましたが、改憲は政治的に難しかったので、政府としても9条と自衛隊の関係は放置せざるを得なかったし、それどころか戦後、自衛隊の活動範囲を広げる目的で、政府による9条の解釈は広げられ続けた。でも、解釈でなんでも合憲になってしまうのであれば、国民は『立憲主義って何ですか』と混乱してしまう。その混乱が調査結果に表れているのだと思います」 ──解釈を変えるだけで憲法をいくらでも運用できる。だとすると、政府は何の縛りもなく行動できるようにも映ります。 「9条のおかげで防衛力に歯止めがかかってきた、と言う人はいます。ただその一方で、9条と現実の安保政策の乖離が放置されたことで、憲法が何のためにあるのかという意義を国民が忘れたり、誤解したりするようになったとすれば、問題でしょう。先の調査で『A』を選ぶ人が大半を占めるようなことになれば、いよいよ憲法は必要ないということになります」 ──それはいいことなのでしょうか。 「いいことなわけないでしょう。だけど、国民の間で自発的に憲法の問題を取り上げて論じるという運動が起きるかといえば、期待できない。それは政治家から提起していくしかない。」
自民党を勝たせてきた「9条」
──自民党は現在改憲4項目として「自衛隊の明記」「緊急事態への対応」「参院の合区解消」「教育環境の充実」を挙げています。 「そのうち、選挙の争点として特に注目されるのは『自衛隊の明記』であり、『9条』でしょう。なにより、自民党にとって、憲法9条の問題というのは打ち出せば野党を分断できる、打ち出し得の争点です」 ──どういうことでしょうか。 「自民党が9条改正を打ち出せば、立憲民主党と共産党は絶対乗らない。一方、維新の会は乗り、国民民主党も乗ってくるかもしれない。そうなれば野党を分断できます。改憲は、野党同士をもめさせるネタになるのです」 「2017年の衆院選前、当時の民進党では小池百合子都知事と組んで希望の党に合流する流れができた。ところが、小池さんが憲法改正や安保法制への賛成を踏み絵とする誓約書を所属議員に提出させ、合意できない議員は『排除します』と発言した。そのせいで結局、“大希望の党”はできず、立憲民主党が生まれるなど、かえって野党陣営の分断が進んだ。あれはまさに、改憲が政界の焦点であったために起きた事態でした。代表となる小池さんからすれば、結党後の内紛を恐れますから、できるだけこの問題で意見の一致した議員を集めたかったのは当然です。問題は、そもそも政治家の間で、『保守vs.革新』という昔ながらの対立を呼び起こす憲法改正問題が残り続けていることにあります。憲法改正をめぐる保革対立は1950年代初頭に始まるものですが、いつまでこの議論を続けていくのでしょうか」