「改憲」肯定派が多数という調査結果 「9条が自民党を勝たせてきた」政治学者語る
境家氏は、憲法と世論の関係を政治学的な観点で研究している。2017年の著書『憲法と世論』では、戦後まもない時期から現代までの世論調査の結果をもとに、有権者の憲法への考え方を明らかにしてきた。それによれば、日本国憲法の施行(1947年)に近い1950年代は憲法改正への機運が比較的高いが、60年代以降は落ち着き、護憲の動きが強くなる。ところが、東西冷戦が終わった90年代になると、ゆっくりと改憲賛成の層が増えていく。ただし、これまでの改憲議論の中心にあったのは「9条」であり、いまも変わっていない。 今年の世論調査では、朝日は「9条を変えないほうがよい」が59%、「変えるほうがよい」が33%で2倍近い差があった。一方、毎日は9条を改正し、自衛隊を明記することに「賛成」が58%、「反対」が26%と逆の結果だった。読売は「戦力の不保持などを定めた9条2項を改正する必要がある」が50%で、「必要ない」の47%をやや上回った。ただし、戦争放棄を定めた「9条1項を改正する必要」は「ない」が80%という結果だった。
国民はどうでもいい「9条」
──9条の改正については、各紙で大きな差が出ました。 「聞き方の違いによる差ではないでしょうか。朝日で9条を『変えない』が6割近く、読売で『改正する必要がある』がやや多いとしても、戦争放棄を定める1項の改正については『必要ない』が8割です。また、毎日の『自衛隊の明記』という部分については、これまでの世論調査の結果からみると、国民の多くは反対ではありません。かつての55年体制期でも、多くの国民は自衛隊に反対ではない。あったほうがいいと思っている。だから、自衛隊を憲法に書き込むことに賛成か反対かとあえて問われれば、多くの人は反対はしません」 ──自衛隊については、内閣府の2018年の世論調査で「良い印象をもっている」が9割近くに上りました。憲法9条について、国民はどのように考えているのでしょうか。 「率直に言うと、憲法9条の細かい文言について、大方の国民はどうでもいいと思っている、あるいは関心がないのが実態でしょう。一番関心が高かったのは1950年代。50年の朝鮮戦争勃発と警察予備隊(現自衛隊)の発足で9条改正・再軍備を求める声が高まり、54年の憲法記念日には共同通信が『改憲派が優勢』と報じています。ところが社会における改憲機運はこれがピークでした。50年代に改憲が実現せずに、9条と自衛隊が共存する状態が長引いた結果、国民の多くはその状態に慣れてしまい、明文改憲しなければならないとの切迫感を弱めてしまいました。その後、9条は維持されたまま、自衛隊は92年に国連平和維持活動協力法(PKO法)で海外にも派遣され、2015年には集団的自衛権の行使を認める平和安全法制も整備され活動範囲が広がっていった。これらすべて、政府解釈では合憲としてきましたね。こうして憲法解釈の拡大が繰り返された結果、9条という安全保障政策の枠が存在することを意識する人は少なくなりました」