「改憲」肯定派が多数という調査結果 「9条が自民党を勝たせてきた」政治学者語る
7月10日投開票が有力視される参院選が近づいてきた。与党の自民党は、今回も憲法改正を公約に掲げる予定だ。先月の憲法記念日に発表された各報道機関の世論調査では、憲法改正を肯定・賛成する意見が複数のメディアで過去最高となった。こうした直近の世論をどう見るべきか。憲法と世論の分析に詳しい東京大学大学院の境家史郎教授(政治学)は、「改憲賛成が増えたのはロシアのウクライナ侵攻の影響」と語った。(ジャーナリスト・森健/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
「改憲」肯定派が増えたわけ
──毎年恒例の憲法記念日の世論調査で、主要各社で憲法改正に「賛成」が多くなり、とくに朝日と読売で改憲「賛成」が過去最高を記録しました。この結果をどう見ていますか。 「大前提として、毎年新聞各社が行っている憲法の世論調査は、大ざっぱなことしかわかりません。『憲法を改正した方がよいと思いますか』といった、『何条のどこを変える』という具体性のない問いを私は『一般改正質問』と呼んでいますが、この質問の回答から国民の意図を理解するのは容易ではありません。ですが、歴史的にみると、この質問で改憲賛成の意見が増える状況として、二つのパターンがあることが分かります」 ──どんなものですか。 「一つは、憲法改正の論点が9条以外にも拡散している状況です。1980年代までは改憲の論点は『9条』ばかりでしたが、1990年代になると論点が多様化します。首相公選制や緊急事態条項の導入、プライバシー権や環境権の追記といった、新しい改憲の論点を意識する有権者が出てきた。そうなると、世論調査で『憲法改正したほうがいいですか』と聞かれたとき、一つでも改正したい論点があれば、『改正賛成』と答える可能性がある。結果、1990年代には全体として改憲賛成論が増えていったわけです」 ──もう一つはどうでしょう。 「『一般改正質問』で改憲賛成が増える状況として、災害等で社会不安が高まったとき、というのがあります。たとえば、1996年は前年に阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件があった影響で、『賛成』が大きく増えました。2011年、2012年にも、前後の年に比べて改憲賛成論が強まりましたが、それは東日本大震災の影響があったとみるのが自然です。べつに憲法を変えなくても、災害対策を進めることはできます。けれども、社会への不安感が増してくると、何であれ『変化したほうがいい』と答える人が増える傾向にあるのです。今年は世論調査の時期がロシアの侵攻直後だったので、安全保障への不安感が増していたのではないかと推察できます」