ザックJ入りを争う豊田に見せつけた工藤の矜持
岡崎を超えるために必要なもの
工藤とは対照的に無得点に終わり、連続ゴールが4試合で途切れた豊田は淡々とした口調で、代表の座を争うライバルを讃えるしかなかった。 「最後のところでしっかりと仕事をされてしまった。周りも工藤を生かそうとしていた。コンディションのせいにするのは、プロとして一番やってはいけないこと。自分もそこは問題なかったのですが……」 工藤は東アジアカップでは2列目の右サイドを任されたが、そこにはアルベルト・ザッケローニ体制下で最多の18ゴールを挙げている岡崎慎司(マインツ)が、不動のレギュラーとして君臨している。工藤が今後、日本代表に食い込んでくるためには、超えなければならない大きな壁である。 ウルグアイ代表との国際親善試合(14日、宮城スタジアム)に臨む代表メンバーは、8日に発表される予定だ。招集レターが送付された13人のヨーロッパ組の中には、もちろん岡崎も含まれている。この日のJ1は代表発表前で最後のアピールの場だったが、2列目は選手層が最も厚いザックジャパンの激戦区だけに、今回の招集は難しいかもしれない。 それでも、工藤はしっかりと足元を見つめている。全3試合に出場し、1ゴールを記録した東アジアカップはすべてリセット。自らの原点に戻ることを誓っている。 「代表へのアピールは、個人的には考えていない。代表のことは頭から忘れて、今はレイソルのためにプレーしないといけない」 工藤のサイズは177cm、74kg。まるで重戦車のような185cm、79kgの豊田が持つ高さとパワーもなければ、東アジアカップで得点王を獲得した柿谷のような卓越したテクニックとセンスも持ち合わせていない。 それでも工藤は左右両足と頭を駆使して、どんな体勢からでもシュート体勢に持ち込める多彩な得点パターンを持っている。常にチームを第一に考える思考回路と、それをピッチの上におけるパフォーマンスとして、攻守両面で体現できる熱きハートがある。 チームを3試合ぶりの勝利に導く2発で、今シーズンの通算得点を「12」に伸ばした。自己最多である昨シーズンの「13」を更新するのは時間の問題であり、1位の渡邉千真(FC東京)と2差という状況を考えれば、得点王も狙える位置にいる。もちろん、23歳の若きストライカーは現状にまったく満足していない。 「自分がもっと決めていれば、チームはもっと勝てたと思っているので」 岡崎との距離を縮め、やがては超えるために。今現在の自分が何をすべきかを、工藤は分かっている。それはゴールを、それもチームのためになるゴールを積み重ねていくことだ。苦しい時に歯を食いしばって力を振り絞り、誰もが納得する実績を残していくことだ。それはA代表デビューを果たした直後の岡崎が、清水エスパルスで実践していたことでもある。 (文責・藤江直人/論スポ)