ザックJ入りを争う豊田に見せつけた工藤の矜持
豊田は工藤をどう見たか
昨日の友は、今日のライバルである。 サガン鳥栖のFW豊田陽平は、日本代表としてともに戦った東アジアカップから一転、敵地・日立柏サッカー場で敵味方として対峙した柏レイソルのFW工藤壮人の動きが気になっていた。 「前半のプレーを見ている限りでは、体が重そうに見えたので……」 東アジアカップが開催された韓国から帰国して、ともに中1日で31日のJ1再開初戦に先発フル出場したが、工藤は韓国との最終戦で先発出場して後半25分までプレー。韓国の怒とうのプレッシャーの前に防戦一方となり、精魂尽き果てる形でベンチへと退いていた。対して豊田は、終了直前の後半43分からの出場。肉体内に蓄積された疲労は工藤のほうが大きかったはずだ。 7日間で3試合目となる工藤が、豊田の目に“精彩を欠いていた”と映っても不思議ではなかった。 しかし、終わってみれば、試合は工藤の独り舞台と化した。 両チームともに無得点で迎えた前半29分。FWクレオとのワンツーで中盤を抜け出したMFレアンドロ・ドミンゲスが、右前方のスペースへ走り込んでいた工藤へヘディングで絶妙のパスを送る。背番号9は相手GKの動きを冷静に見極めて、右足のソフトタッチによるシュートでネットを揺らした。 この日のレイソルはクレオをワントップに置き、2列目に3人を置く4‐5‐1を採用。工藤が任された右サイドは、東アジアカップにおけるポジションと同じだった。攻撃的なポジションならすべてこなせる点が工藤の特徴のひとつ。豊富な運動量で右サイドの守備を担いながら、相手の最終ラインの背後をうかがう姿勢を常に忘れない。足は遅くはないが、際立って速いわけでもない。それでも、得点の匂いを嗅ぎ取った時にだけ、トップスピードに到達する加速度が増す。工藤の真骨頂と言ってもいい得点シーンだった。 圧巻は後半20分。ともに東アジアカップを戦ったDF鈴木大輔がサガンの縦パスをインターセプトした直後に、工藤は右サイドを全速力で駆け上がっていった。ドミンゲスからのスルーパスを受けて右足を振り抜くと、角度のない位置からのシュートは相手GKが懸命に伸ばした右手をかすめてゴールの左隅に突き刺さった。 今シーズンの開幕直後に、工藤からこんな言葉を聞いたことがある。 「最近は落ち着いてゴールを決められるようになったと思います」 相手DFが体を寄せてくる中で冷静にコースを見極め、ここしかないというルートに正確に蹴り込む。今シーズンの成長の跡を披露し、狂喜乱舞するサポーターの前でガッツポーズを繰り返した。 代表に選ばれたことによる疲労や、コンディション不良は決してJの舞台には持ち込まない。それが工藤のプライドと責任感だ。 J1の再開後に「疲労もあってコンディションがフィットしない不安もあったのでは?」と問いかけられた工藤は、こう反論していた。 「それ(不安)を持ってプレーしたらダメだと思いますし、それを持ってプレーしたら、今まで僕がいない間に(FWを)やっていた選手に対しても失礼になる。スタメンで行くと言われたからには、監督にもチームメイトにも100%のプレーで返さないといけないので」