最高裁裁判官の国民審査は“すごく役に立ってきた”…「在外日本人国民審査権訴訟」で“違憲判決”を導いた弁護士が語る「1票の威力」とは
国民審査の結果が最高裁を動かし、国会を動かした「実績」
吉田弁護士は、いわゆる「一票の格差」「投票価値の平等」の問題について、国民審査の結果がその後の裁判官の判断に影響を示したと考えられる実例があると指摘する。 吉田弁護士:「昔から訴訟で争われてきている重要なテーマの一つに、国政選挙での『一票の価値』の問題があります。選挙区ごとの議員定数が不均衡となっている結果、有権者1人あたりがもつ投票の価値に不平等が生じているという問題です。 2009年8月30日の国民審査で、直近の定数不均衡の訴訟で『合憲』の判断を示していた涌井紀夫裁判官と那須弘平裁判官に対し、弁護士らで組織された『一人一票実現国民会議』が罷免を呼び掛けるキャンペーンを行いました。 その結果、涌井裁判官と那須裁判官の不信任率が他の裁判官よりも著しく高い結果になりました(【図表1】参照)。 その後、那須裁判官は2009年の参議院選挙に関する判決で『違憲』の判断を行いましたし、2011年以降は最高裁全体としても投票価値の格差問題について厳しい態度で臨むようになりました。 この那須裁判官と最高裁の姿勢の変化、ひいてはそれを受けての国会の定数是正への取り組みに、2009年の国民審査の結果が影響を与えた可能性が考えられます」
選挙で争点になりにくい関心事を「争点化」できる
また、吉田弁護士は、国会議員の選挙にはない国民審査のメリットとして、自分が関心を持っていても選挙で争点になりにくい問題を「争点化」できることを指摘する。 吉田弁護士:「国会議員の選挙は、経済政策、社会福祉政策、外交・防衛政策など、様々な政策を『抱き合わせ』にして判断して投票するものです。 そうすると、どうしても経済政策が重視されやすく、経済政策が自分と親和的な政党に投票しようとなることが多いと思います。 しかし、国民審査の場合は、訴訟の重要なテーマになっている限り、自分の関心のある課題、たとえば『同性婚』や『選択的夫婦別姓』『冤罪と再審』の問題などについて一定の意思を表現できる可能性があるというメリットが考えられます」