最高裁裁判官の国民審査は“すごく役に立ってきた”…「在外日本人国民審査権訴訟」で“違憲判決”を導いた弁護士が語る「1票の威力」とは
投票するための判断材料は“私たち自身の中”にある
では、国民審査において、私たちはどのような基準で投票すればいいのか。 吉田弁護士:「『日本の司法制度は間違っているから全員に×を付ける』という方もいます。しかし、それは戦略的にみると、自分の一票の価値を有効に使えていないような気がします。 先述したように、裁判官は、他の裁判官と比べて『×』の率に差がつくことによって、『自分の判断が国民に受け入れられていないのではないか』と気づくきっかけになります。 したがって、裁判官ごとに差をつけて投票することが有効でしょう。 決して、世の中のいろいろなテーマについてすべて勉強して理解した上で投票しなくてもいいと思うのです。 まず、NHKの特設サイトなど、インターネット上にも非常に充実した参考資料があるので、そういうものをざっと見てください。 そして、自分が興味と関心のあるテーマや大切にしているテーマに着目して、たとえば『選択的夫婦別姓』『同性婚』『冤罪と再審』などについて、誰がどのような判断をしているのか、どのような考え方を持っているのか、チェックしてみることをおすすめします」 家族や友人、職場の同僚などとの会話で話題にして話し合うことも大切だという。 吉田弁護士:「世の中で話題になった事件や自分が関心のあるテーマに関して、最高裁が行った判決の内容や、裁判官が個別に書いた意見の中身などについて話すことによって、自分の考えが深まるし、他の人も同じように興味を持ってくれるかもしれません。 そのようなやりとりを通じて、どういう裁判がいいのか、どういう司法制度がいいのかということが見えてきます。 私たちの生活に関わる重要な問題について考える最初の出発点になるでしょう」
任命されて間もない裁判官を“とりあえず信任する”ことの「効用」
ここで、「任命されて間もない裁判官について、どのように判断すべきか」という問題が生じる。 現行制度では、裁判官の初回の国民審査は、任命直後の衆議院選挙の際に行われることになっている。2回目の国民審査は10年後であり、それまでに今回の審査対象の裁判官の全員が定年退官を迎えるため、事実上、今回が最初で最後の国民審査となる。 そして、6名のうち5名は過去1年以内に任命されており、最高裁裁判官としての実績が少ないか、全く実績がない。 吉田弁護士:「現行制度では、分かる範囲で判断するしかありません。 経歴は分かっているので、最低限、法律的な素養が全くない人を任命してしまっていないかのチェックはできます。 また、『最高裁裁判官としての実績がないのでとりあえず×はつけないでおく』『とりあえず信任する』という行為も、効果を発揮する可能性があります。 たとえば、最高裁裁判官としての実績があるAさんに『×』が多くつき、任命直後のBさんと有意な差がつけば、Aさんにとっては民意とのズレに気付くきっかけになり得ます。 また、Bさんにとっても、国民に寄り添った良い裁判をしようという動機になるでしょう」