なぜ躍進を続けてきた日本男子バレーはパリ五輪で苦しんだのか? 日本代表を10年間支えてきた代表コーチの証言
フランスの優勝で幕を閉じたパリ五輪・バレーボール男子。予選ラウンドで1勝2敗と苦しんだ日本は、結果的に東京五輪に続く、2大会連続のベスト8で大会を終えた。52年ぶりのメダル獲得も期待された中で、理想的な結果にはたどり着けなかったが、大会期間中に不振を乗り越え、準々決勝で復活を果たしたチームの姿に、数多くの感動が詰まっていたのは間違いない。日本代表コーチとしてチームを支えた伊藤健士の目には、パリ五輪での戦いがどのように映っていたのか。(取材日:9月5日) (文=米虫紀子、写真=AP/アフロ)
髙橋藍の加入、ミドルブロッカーの成長が飛躍の原動力
――パリ五輪準々決勝・イタリア戦から1カ月が経ちましたが、振り返って、どのような思いが大きいですか? 伊藤:1カ月経っていろいろと考えることも多かったんですけど、少し意外だったことがあって。オリンピック開幕前はメダル獲得を期待されて、僕らも自信があり、その中で準々決勝敗退だった。前評判通りにいかなかったということで、少し批判的なメッセージもあるのかなと思っていたんですけど、逆に「テレビで観ました。素晴らしい試合でした」「感動しました」といった意見のほうが多かったんです。悪い意見をあまり聞かない。それがなんでなんだろう?とずっと考えていて。たぶんですが、イタリア戦の内容が非常に濃くて、我々もすべて出し切った試合だったので、それが観ている方に伝わったということなのかなと。 代表の活動が終わってからは、会う人が身近な人に限られていますが、その中でも「感動した」という言葉を多くいただきます。通っているジムのオーナーさんが、普段は話すことはないんですが、「非常にいい試合でした」とわざわざ言いに来てくださったり(笑)。 特にバレーに詳しい方々は、本来の日本の力を知っていて、予選ラウンドでなかなか乗り切れなかった日本が、イタリア戦であれだけ戦えるところまで戻ってきたということも、観てくださっていたのかなと。約10日間の中であれほどドラマチックにチーム状態が変わるのかという展開でしたからね。普通短期決戦は、あれだけダメだったらそのまま終わるものなんですけど、なんとか準々決勝で本来の力が出せた。アルゼンチン戦やアメリカ戦では特に石川(祐希)が苦しんでいたんですけど、イタリア戦で彼が戻ってきて、最後のピースがハマったなという感じがありました。彼はキャプテンで、みんなが見ていますから。 ――メダルを期待されて、自信もあったとおっしゃいましたが、東京五輪後のこの3年間の日本の飛躍は本当に凄まじいものがありました。 伊藤:東京五輪からメンバーが大きく変わることなく、チームのかたちが非常に見えてきた。特に(東京五輪前に)髙橋藍が加わったことで、サーブレシーブが安定し、サイドアウト力が高まり日本チームの良さが非常に出るようになりました。また、ずっと続けてきたクイックの強化により、攻撃に広がりが出て、いいアクセントになりました。 もともと良かったサイド陣に加えて、小野寺太志、山内晶大、髙橋健太郎は少しサイドアウト力は落ちますが(苦笑)、そうしたミドルブロッカー陣が非常にいい働きをしてくれました。ずっと課題だと言われていたミドルが、この3年間で伸び、それに伴ってサイドアウトが安定した。本来の武器であるディフェンスからのトランジションも非常に伸びましたし。どんな強い相手に対しても、安定したパフォーマンスを出せるというのが日本の良さだと捉えていました。