なぜ躍進を続けてきた日本男子バレーはパリ五輪で苦しんだのか? 日本代表を10年間支えてきた代表コーチの証言
「みんなかなり調子いいよね」石川祐希の復調
――アメリカ戦はセットカウント1-3で敗れましたが準々決勝進出を果たしました。イタリア戦に向かう雰囲気はどうでしたか? 伊藤:相手がイタリアに決まって、試合前日の練習はチームの状態が非常によかったんです。6対6のゲーム形式の練習では、監督は最初ローテーション1周だけやろうと言っていたんですけど、1周終わったら選手たちが「もう1周やりたい」と言い出したんです。こんなことあまりないんですけど。監督も「じゃあいいよ」となってもう1周やったんですけど、それもすぐに回って、非常にいい状態でした。「みんなかなり調子いいよね」という話をしていましたね。 その時点で、石川が戻ってきたなという感覚があったので、これはいけるんじゃないかと、みんなメンタル的にすごく揃っていました。その前日(アメリカ戦の翌日)の練習は基本的に自由参加で、控え選手の何人かだけが練習に参加したんですが、石川もそこに参加して、深津(旭弘)にトスを上げてもらって1人で数十本打ち込んでいました。ハイボールの打ち方とか、コートの奥に叩くということを繰り返していて、そこで何かつかんでいたように見えました。もちろん一緒にやっている選手たちが一番わかっていたでしょうから、(イタリア戦前日に)「あ、帰ってきたな」という感覚はあったでしょうね。 石川が復調して迎えたイタリア戦、日本は予選ラウンドとは見違えるパフォーマンスを発揮しマッチポイントを握るが……。イタリア戦で日本が主導権を握ることができた理由と、伊藤コーチが悔やんだポイントとは――。 <了>
[PROFILE] 伊藤健士(いとう・けんじ) 1981年9月13日生まれ、東京都出身。バレーボール男子日本代表コーチ。筑波大学大学院を卒業後、東レに入社。東レアローズ男子バレー部でアナリストを務めた。2014年に男子日本代表のアナリストに就任し、その後コーチとして長くチームを支えた。
文=米虫紀子