なぜ躍進を続けてきた日本男子バレーはパリ五輪で苦しんだのか? 日本代表を10年間支えてきた代表コーチの証言
アメリカと相性が悪い理由。「パイプに対しては非常に守りづらい」
――アメリカとの予選ラウンド第3戦では、第3セットは奪ったものの、前半は一方的な展開でした。アメリカと相性が悪い理由はどこにあるのでしょうか。 伊藤:試合をやる前から、フィリップ・ブラン監督、(アナリストの)行武(広貴)と打ち合わせをする中で、苦しい展開は予想していました。アメリカは非常にサーブが良くて、しかも日本のゾーン1(コートを6分割した時のバックライト)、ゾーン6(バックセンター)に多くくるし、ジャンプサーブも多い。日本からすると、石川のほうにたくさんサーブがくるということです。強いサーブができるだけ彼のほうに行かないようなマッチアップを考えていたんですけど、アメリカに対しては「どうしたってくるよね」という話になって。 加えて、アメリカはクイック、パイプ攻撃が素晴らしい。クイックはともかく、パイプに対して日本はブロックが難しいんです。日本チームのサイドブロッカーはそれほどサイズがないので、しっかりと助走を取らないといいジャンプにならない。スタンディングジャンプではそれほど高さが出ないので、パイプに対しては非常に守りづらいんです。 日本は、相手の両サイドの攻撃やオポジットが良くても、端からの攻撃に対しては結構守れる自信がある。クイックに対しても、ミドルブロッカーがコミットブロックをしたり、サイドブロッカーがアシストするという戦術があるんですけど、パイプに対しては後から、スタンディングで跳ばなきゃいけないので。 アメリカはもちろんブロックもいいですしね。アメリカ戦は1セットを取れば準々決勝に行けるとわかっていたんですけど、監督は「それはあまり言いたくない。いつも通り戦いたい」ということで、あまり大々的に選手の前で言うことはありませんでした。ただ、1、2セット目を取られてしまったので、我々も何としても1セットを取るという方向にシフトしないといけないと思いまして。 ――どういうことですか? 伊藤:1、2セット目は、日本のパフォーマンスが出れば勝てるんじゃないかという当たり(マッチアップ)だったんですけど、それだとどうしてもセッターの関田(誠大)が前衛でブロックに跳ぶ機会が多くなってしまって、セット序盤のトランジションで徹底的に関田の前から点数を重ねられてしまった。第3セットをどうしても取るとなった場合、序盤にアメリカにバンバン点数を取られて走られてしまうと困るので、なるべく関田のブロックが少なくなるローテーションにしようと。 あとは石川が、ポジション2(セッターの次にサーブを打つポジションに入るアウトサイドヒッター)の役割を果たせていなかったので、監督がもう交代させるということで、大塚(達宣)を起用しました。なおかつ藍を、サーブレシーブの時に強いサーブが多くくるポジション2に入れました。あとは、選手たちが、石川がコートにいなくなって「自分たちがやらなきゃ!」と非常に頑張ってくれたので1セットを取れました。大塚もめちゃくちゃ気合いが入っていましたし、うまくストレート側に打ってブロックアウトを取ってくれたりして、展開が変わりましたね。ただアメリカもまた対応してきて、4セット目は難しい展開になりましたが。