なぜ躍進を続けてきた日本男子バレーはパリ五輪で苦しんだのか? 日本代表を10年間支えてきた代表コーチの証言
「ちょっとアメリカはキツイなと。お腹いっぱい感はありました」
――本当に日本の良さを出せればどんな相手にも勝てるというところまできていたと思います。ただパリ五輪の予選ラウンドでは1勝2敗と苦しみました。何が起きていたんでしょうか? 伊藤:選手村に入るまでは全然プレッシャーもなくできていて、事前合宿地のポーランドでもみんな調子が良かったんです。ただ、選手村に移動するとなった時に、そこに入ることができる人数は限られるので、スタッフの拠点がばらけたり、練習環境もダイナミックに変わりましたから、そういうところから実感が湧いて、選手もスタッフも「あ、オリンピックなんだな、いつもと違うな」という感覚が出てきたと思う。でも開幕までの練習は非常に良かったんですよ。 ただ初戦のドイツ戦は、相手も同じですが、朝9時開始という非常に早い時間の試合でした。だから3日間ぐらいかけて、朝5時過ぎに起きて、6時から散歩して朝食、というふうに慣らそうとしたんですが……。どうしても本番になると、前夜にうまく睡眠に入れなかったという声も聞きました。それで5時頃起きて、睡眠不足の状態で朝一番の試合、というところも影響したのかもしれない。また、本番になって「やらなきゃ」という感覚が強くなってしまい、特に第1セットは非常に動きが硬かったですよね。 ――それでも第2、3セットを取り、第4セットもマッチポイントを握りましたが、そこで接戦を取りきれなかったのも響きましたね。 伊藤:ドイツ戦の第4セットは、山内のネットタッチと、藍がアンテナに触ってしまった、あの終盤の2点は痛かったですね。相手のスパイクがアウトだったので。なんだかんだ、あのドイツ戦に勝ったか負けたかで、メンタル的なところがだいぶ違ったのかなと感じます。 勝っていれば安心したというか、落ち着いていいムードになったのかもしれない。でも、負けて背水の陣になったからこそ、というのもあったかもしれない。次のアルゼンチン戦の入りは、ドイツ戦とはまったく違っていましたから。まあ勝っていればよかったとは思いますけど、何が正解か、ハッキリとわからないところはありますね。 ――予選ラウンドは8位ギリギリでの通過でしたが、準々決勝で対戦することになった予選1位のイタリアは相性が悪くない相手で、幸運な面もあったのでは? 伊藤:それはありましたね。日本が8位に決まった時点で対戦する可能性があったのはアメリカ、ポーランド、イタリアだったのですが、ちょっとアメリカはキツイなと思っていて。(予選ラウンド第3戦で)やったばかりだし、もういいよっていう、お腹いっぱい感はありました(苦笑)。相性も悪いし。