【お正月に読みたい本】世界を席巻したVRアニメから生まれた小川洋子『耳に棲むもの』
書評家・ライターの江南亜美子が、バイラ世代におすすめの最新本をピックアップ! 今回は、小川洋子の『耳に棲むもの』をレビュー! 【画像】江南亜美子さんのおすすめの本 【ナビゲーター 江南亜美子】 文学の力を信じている書評家・大学教員。新人発掘にも積極的。共著に『世界の8大文学賞』など。
「父はどんな声をしていただろう?」ささやかなものたちの音楽
心がかき乱されたとき、耳の中に棲むドウケツエビと4人の音楽隊が涙を音符にかえて奏でてくれる――。小説を開いた瞬間から、現実とは別の世界に読者を連れ出す小川洋子の想像力は本作でもさえにさえる。小鳥ブローチを作る会の先代について語るとき、小鳥を口いっぱいに詰めるという無残な死に方は、いかにもその人らしい魅力となる。完璧な形の耳を持つ少女と、暗闇で耳と耳をぴったりくっつけたとき、その奇妙な行為は愛の別名となる。 耳の穴という、外界と体の内側をつなぐ通路を補聴器でふたすると、心の声が聞こえだすのだ。美しさと不気味さがまじりあう物語に、ひととき酔いしれたい。 『耳に棲むもの』 小川洋子著 講談社 1980円 補聴器のセールスマンとして各地を旅していた亡き父。娘が、缶に収められた耳の4つの「遺骨」に思いをはせるとき、物語が生まれていく。山村浩二監督のVRアニメ映画の原作から著者が発展させた短編連作。 ※BAILA2025年1月号掲載