日常生活は劣化し、貧困高齢者は激増。現役世代の負担は増え続ける――超高齢日本の未来年表
「高齢者でも労働」が当たり前に
この状況は、今後の高齢就業者を取り巻く環境を激変させていくだろう。現在の高齢者就業といえば「年金の足し」とか「健康維持のため」として週に何時間か働くといったイメージで語られることが多いが、年金受給額も老後の蓄えも十分でない人が増えれば、「食べていくために働き続けなければならない」高齢者が多くなる。老後不安から働き続ける人も増大しよう。 超長寿社会では、「年金の足し」とか「健康維持のため」といった働き方をする人がいる一方で、「現役時代」さながらにバリバリ働く人も珍しくなくなる。高齢期の働き方が多様化する社会でもあるのだ。 政府はその地ならしを進めている。高齢者の就業を促進すべく、2021年にまず65~70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務としたのに続き、2025年4月からは高年齢者雇用確保措置として希望者全員の65歳までの雇用機会の確保を義務化する。企業側は①定年年齢の65歳までの引き上げ、②希望者の継続雇用制度の導入、③定年廃止──のいずれかの対応を迫られることとなる。 さらに、今年9月改定の高齢社会対策大綱では「働き方に中立的な年金制度の構築」を目指すとして、在職老齢年金(賃金と厚生年金の合計が月額50万円を超すと支給額がカットされる仕組み)見直しの検討が盛り込まれた。高齢社会対策大綱は、2029年の65~69歳の就業率を2023年と比べて5ポイント引き上げ、57%とすることも目標として掲げている。 これらの政策は昨今の人手不足への対策でもあるが、就職氷河期世代を中心とした「これから高齢者となる世代」の老後資金対策としての意味合いが大きい。「働けるうちは働いてもらい、高齢期の生活費は可能な限り自分で稼いでほしい」という政府の本音が透けて見える。 というのも、人口が減り、国民が高齢化するにつれて税収が減るためだ。財源を確保できなければ、貧困高齢者が増えても公的支援をすることは難しい。 そもそも65歳以上人口が総人口の半数近くを占めるような超高齢社会になったら、年齢にかかわらず働く能力のある人は働くことが求められる。そうしなければ社会機能を維持できなくなるためだ。いかに人工知能(AI)化やデジタル化、機械化が進もうとも、その導入にはお金がかかる。開発費用や維持コストを考えれば、すべての仕事・業務を代替させることはできないだろう。 (『中央公論』12月号では、この他にも「高齢者の高齢化」による内需の縮小や、高齢者人口が2043年にピークに達した後も医療・介護費は増え続ける問題などについて詳しく論じている。) 河合雅司(一般社団法人人口減少対策総合研究所理事長) 〔かわいまさし〕 1963年愛知県生まれ。中央大学卒業。産経新聞社で論説委員などを務めた後、現職。高知大学客員教授、大正大学客員教授のほか、厚労省や人事院など政府の有識者会議委員、超党派国会議員による「人口減少戦略議連」特別顧問なども務める。『未来の年表』シリーズなど著書多数。