教員の給与、「教職調整額が増えても先生になりたい人は増えない」が96%の理由 クジラボが全国の現役教員259名に調査を実施
文科省案か、財務省案かで議論が本格化
教員のキャリア支援などを展開するクジラボは、全国20~60代の小学校・中学校・高校・特別支援学校の現役教員259名の教員を対象に行った「教職調整額引き上げ案に対する定量調査」の結果を公表した。 【調査結果を見る】先生を辞めたいと思った理由は何か? 現在、公立学校の教員の給与について定めた給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)に関しては、見直しをめぐって業界全体が揺れている。 公立学校の教員には、時間外勤務手当や休日勤務手当を支給しない代わりに、給料月額の4%相当の「教職調整額」を支給することが給特法で定められている。いわゆる超勤4項目「1. 校外実習等、2. 学校行事、3. 職員会議、4. 非常災害等」を除き、教員に時間外労働を命じることはできない建前になっているのだ。 だが文科省によると、平日1日当たりの学校での勤務時間は、小学校で10時間45分、中学校で11時間1分と前回調査から30分ほど減ってはいるものの、依然として長時間勤務の教員が多い。また1週間当たり勤務時間から、文科省が示しているガイドライン月45時間を超えていると見られる教員(週50時間以上)は小学校で64.5%、中学校で77%だった(教員勤務実態調査〈令和4年度〉の集計(確定値)について)。しかも、ここに持ち帰りの仕事は含まれていない。 そんな中、文科省は2026年から、教職調整額を基本給の4%から13%に引き上げる予算案を提出していた。だが、その後、財務省からは働き方を改善するという条件付きで「基本給の4%」から段階的に引き上げる案が出され、議論が本格化していた。
現場の教員には財務省案が支持されている?
「文科省案がいい」「財務省案が有効」「どちらも問題がある」など、さまざまな意見が飛び交う中で、渦中にある教員はどう考えているのか。 今回、クジラボが行った調査では、「教職調整額が増えることで、先生になりたい人は増えると思いますか?」の質問に、「喜ばれるとも増えるとも思わない」33.2%、「喜ばれるが、増えるとは思わない」62.5%と、約96%にもおよぶ教員が「教職調整額引き上げで先生になりたい人は増えると思わない」と回答した。 また先生の仕事を辞めたいと思ったことがある教員に対して、先生を辞めたいと思った理由について聞いたところ、「業務量に対する負担」が68.9%、「教育以外の業務の割合の多さ」が59.2%で多く、「給与や待遇面」を挙げた人はわずか35.3%だった。 一方で、先生の仕事を10年後続けたくないと回答した教員のうち49.6%が、「教育以外の業務の軽減や削減」があれば続けたい意向が上がると答えた。「給与や待遇の改善」は、こちらの項目でも14.6%と低かった。 先生の仕事を10年後続けたくないと回答した教員に「教職調整額が増えることで、先生を続けたい意向に変化が生まれますか?」と聞いたところ83.9%が「変化は生まれない」という回答だった。 ここまでの回答では、給与や待遇よりも「働き方」に対する支援が求められており、財務省案が支持されているように見える。 だが、「財務省案が可決された場合、働き方改革が進むことに期待を持てますか?」という質問には、なんと83%が「財務省案が可決されても働き方改革に期待は持てない」と答えた。主な意見は以下のとおりだ。 ・業務量は変わらず、結局仕事を家に持ち帰ることになるから ・教員が従来の働き方にやりがいを待っており、働き方を変える工夫を進んで取り組んでいないため ・学校現場はいつも変化が遅い、もしくは変化を嫌う傾向にあり、新しいことを取り入れるには時間がかかる ・会議の短縮やペーパーレス化等による業務の削減への対策のほうが急務だと思う ・教科書の内容が多すぎる ・教員によって、大切に思う業務が違うので、減らすのが難しい ・働く先生以上に子どもや保護者ファーストだから ・働き方改革の推進主体者の中に外部の人間がいないから。教員だけだと表面の変化にとどまる可能性が高い 文科省案か、財務省案か、に限らず全体的な見直し、議論が必要ということだろう。 教職調整額の引き上げで目の前の業務が減るわけではないし、そもそも人材が不足している学校現場が多く、その前に「人を増やしてほしい」という声を多く聞く。だが、学校に限らず、すべての業界で人材が不足しているといっても過言ではなく、教員不足の解消も簡単ではない。 そのための働き方改革というわけだが、教員一人ひとりにできることは限られている。業務のスクラップ&ビルドを進めるには、校長などの強力なリーダーシップが必要であり、学習指導要領のカリキュラムオーバーロード問題などもある。 給特法は、これまでも改正や廃止についてさまざまな声が上がってきた。それでも長い間見直されてこなかったわけだが、このまま議論が深まっていくことを期待したい。 <教職調整額引き上げ案に対する定量調査 調査概要> 調査方法:オンラインアンケート 対象者:全国20~60代の小学校・中学校・高校・特別支援学校の現役教員 調査期間:2024年11月15日~11月23日 有効回答数:259名 調査主体:株式会社クジラボ 調査協力:株式会社LX DESIGN、教育コミュニティ「先生たちのホームルーム」 (注記のない写真:マハロ / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部