「凱旋門賞制覇は「夢」から「目標」へ」馳 星周×矢作芳人〈JRA調教師〉『フェスタ』
ステイゴールドという馬
――馳さんは『黄金旅程』でステイゴールドをモデルにした馬を登場させたほど、その一族のファンとして有名です。カムナビの父であるナカヤマフェスタもステイゴールド産駒(さんく)ですね。 矢作 あの血統は本当に大変だよ(笑)。 馳 みんなそう言いますよね(笑)。 矢作 僕が調教師試験に受かった時、記者会見で「目標は?」と訊(き)かれて「凱旋門賞です」と答えたのがちょうど二十年前なんだけど、初めて凱旋門賞に行ったのは一昨年なんですよ。勝負になると思った馬しか連れて行きたくなかったというのもあるんだけど、やっと行けた時に連れて行ったのがステイフーリッシュです。 馳 ステイゴールドの子ですね。 矢作 ステイゴールドの血統を特別意識したわけじゃないけど、振り返れば必然なのかなって。そういう血なんだよなって思いますね。ステイフーリッシュも大変な馬でしたから。こちらの言うことを全然聞かなくて。でも、フランスに行ったら落ち着いていましたよ。結果は出なかったですけど。 馳 いやあ、あれだけ雨が降ったらねえ。「ここまで降らなくてもいいじゃん」って思いましたよ、ほんとに。 矢作 初めて凱旋門賞に来て、せっかくいいスーツ着てきたのにこれ? って笑っちゃうぐらいの土砂降りでしたから。 馳 レース直前に降り始めたんですよね。 矢作 『フェスタ』を読んでいて思ったのが、カムナビのために雨を欲しがるじゃないですか。厩務員の小田島(おだじま)が、降らねえじゃねえか、みたいなことを言ってると、ジョッキーの若林(わかばやし)が「天気は変えられませんからね」って、達観したようなことを言う。早くああなりたいなって思いましたよ(笑)。 馳 天気は思い通りにならないですからね。 矢作 ステイフーリッシュを連れて行って思いましたけど、日本の馬が凱旋門賞を獲るには、ステイゴールドの血を繫げていかなきゃいけないのかなって。もちろん、新たな血統を開拓していくことも大事で、たとえばさっき言ったパンサラッサが今度種馬になるんですけど、ステイゴールドとはまた別系統。ただ、血統は積み重ねですから、ステイゴールドの血統を残すことが凱旋門賞を獲るためにプラスになるかもしれないとは思いますね。