「凱旋門賞制覇は「夢」から「目標」へ」馳 星周×矢作芳人〈JRA調教師〉『フェスタ』
馬はわからない
――作中に「相馬眼(そうまがん)」という言葉が登場しますが、馬を見る目とはどのようなものなのでしょうか。 矢作 僕の仕事は勝ち馬になる確率を1%でも上げること。とにかく走る馬、勝てる馬を探す。机にかじりついて本を読んで学べることではないので、数を見ることを徹底してきました。日本一馬を見ていると自負していますし、数を見ることで相馬眼を鍛えてきたつもりです。 馳 でも、実際のところ、調教師や馬主さんたちが牧場に行って馬を見て、「この馬は血統的にも、体格的にも走りそうだ」と思っても、走らない馬のほうが多いわけですよね。『フェスタ』でも「馬はわからない」って何度も書いてますけど、今、先生がおっしゃったように、その中でも、走る馬に当たる確率を少しでも上げるために日々努力していらっしゃる。 矢作 どの馬が走るかなんて答えは一生出ないです。出ちゃったら大変だしね。 馳 それに、JRAが何年かに一度、馬場傾向を変えたりするじゃないですか。去年あたりから府中(ふちゅう)競馬場の馬場が変わったんじゃないかと思っているんです。そしたら、生産者でも調教師でも、府中の2400メートルで勝つ馬を作ろうとやってきたのに、「あれ? おかしいな」ってことになりますよね。 矢作 JRAが意図して馬場を変えているかどうかはわからないけどね。結局は自分たちで読み切るしかないです。ただ、僕らは馬場を読み切って適応する馬を使えばいいけれど、生産はそんな簡単なもんじゃない。何年も先を見据えてやらなきゃいけないから大変ですよ。 馳 地方競馬でも、去年、大井(おおい)競馬場が砂を入れ替えましたよね。 矢作 白い砂ね。西オーストラリア産の。 馳 それで時計がかかる(走破タイムが遅い)馬場になっちゃったりとか。こっちも馬券を買う時にいろいろ考えるんだけど、本当に奥が深い。馬に目が行きがちだけど、調教師の腕もあるし、ジョッキーの技術もある。あとは天候。雨が降ったら一気に条件が変わる。雨が降らなくても風向きでだいぶ変わりますからね。 去年の凱旋門賞は珍しく天気がよかった。日本からスルーセブンシーズが行ったけど、あの馬の走りからすると、泥んこ馬場じゃ困るけど、スローペースになってくれないと勝てないよなって思ってたのに、まさかの好天で。 矢作 スルーセブンシーズは多少の雨を考えて行ってるでしょうからね。降ってほしいと思っていたでしょうね。 馳 そうそう。結果は4着だったけど、雨が降っていたら勝算があったかもしれない。そんなに都合よくはいかないんですけどね。