「凱旋門賞制覇は「夢」から「目標」へ」馳 星周×矢作芳人〈JRA調教師〉『フェスタ』
それぞれの夢
――『フェスタ』は凱旋門賞制覇という「夢」に向かう人々の物語です。最後に、お二人が抱いていらっしゃる「夢」についてお聞かせください。 馳 作家としての夢は別にないな。競馬ファンとしてなら、今年ステイゴールド一族がGⅠを勝ってくれないかなということ。あと、矢作先生には申し訳ないけど、やっぱり凱旋門賞はオルフェーヴルの子、つまりステイゴールドの孫で勝ってほしい。 矢作 馳君は馬主になろうって気はないの? 馳 ないない。もし自分が馬主になって、レースでその子に何かあったらって考えると気が気でないから。 矢作 そうだね。僕が馬を愛しすぎないようにしているのは、そういう部分もある。今日は馳君がステイフーリッシュのジャンパーを着てきてくれて嬉しかったな。 馳 凱旋門賞出走記念にいただいたんですよね。宝物にしてます。 矢作 ステイフーリッシュって、名前も素晴らしいよね。スティーブ・ジョブズの「stay hungry, stay foolish(常識に囚われるな)」から採ったそうだけど、ステイゴールドの子にふさわしい馬でしたよ。 ――矢作先生の「夢」はどうでしょう? 矢作 凱旋門賞制覇が夢といえば夢ですけど、さっき言ったように「夢」というよりは「目標」になりつつあるので、本当の夢というなら、競馬というこの素晴らしいスポーツと、そのスポーツにお金を賭けられるということをプラスイメージとして日本人に浸透させたい。日本で競馬が文化として栄えることが僕の人生の夢ですね。馳君の『フェスタ』がそのきっかけになってくれるんじゃないかと期待しています。 馳 競馬って生き物が関わってるんで、本当に物語の宝庫なんですよ。僕が二十年ぐらい続けている犬のブログがあるんですけど、その読者だった女性が『黄金旅程』を読んで興味を持ってくれて、今はもう推し馬がいるぐらいハマってるらしいです。ずっと競馬は博打で、ガラの悪いおじさんたちが集まってるイメージだったそうなんですけどね。『フェスタ』を読んで、少しでもそういう人たちが増えてくれればいいなと思いますね。 「小説すばる」2024年4月号転載