「凱旋門賞制覇は「夢」から「目標」へ」馳 星周×矢作芳人〈JRA調教師〉『フェスタ』
競争が激化する世界の競馬
――矢作先生は、日本の馬を海外のレースで勝たせてきた先駆者でいらっしゃいますが、日本競馬の国際化についてはどうお考えですか。 矢作 日本国内では大手ファームの生産馬が強いんですが、海外では必ずしもそうではないんです。マルシュロレーヌもラヴズオンリーユーもノーザンファームという大手の生産馬ですが、パンサラッサは小さな牧場の馬です。僕は大手の馬でなくても海外に行って勝てるんだということを証明しようとしてきましたが、同じようにして海外に挑戦している厩舎も最近多くなっていますよ。 馳 実際、海外のレースに日本馬が出ることが増えましたよね。 矢作 今年のサウジカップなんか、日本の強いダート馬が五頭も行きますよ。賞金を考えたらそれも当然なんですけどね。 馳 一千万ドルですからね。 矢作 円安だから今のレートなら十五億円くらいだね。調教師になって真剣にレート計算する日が来るとは思わなかった(笑)。JRAとしては日本の馬が海外で走ることに痛し痒(かゆ)しな部分もあるでしょうけど、海外で実績を残した馬が凱旋して日本で走る。それが理想だと思いますね。僕もそうなるように心がけています。 馳 「日本馬が強くなっているんだぞ」とアピールはしたいけど、それで日本の競馬が空洞化しちゃうのは困りますからね。 矢作 今、世界の競馬界は競争が激化しているんですよ。世界中のレース主催者がいい馬を誘致するわけです。自分のところのレースに出てくれってね。ただ凱旋門賞だけは、そこにお金を出さない。 馳 他のレースは、招待されると経費は向こう持ちなんですよね。輸送費から先生たちのホテル代まで。凱旋門賞は自腹を切って行かなきゃいけない。 矢作 サウジアラビアなんてお金を持ってますから、僕でさえ飛行機もファーストクラスで招かれたこともありますよ。でも凱旋門賞だけはお金が出ない。フランスのJRAにあたるフランスギャロという機関に交渉するんだけど出してくれないですね。 馳 「来たいんだったら来れば」って感じがしますね。それも凱旋門賞というレースの格を維持するためなのかもしれないけど。