1歳の子どもと同じペースで言葉を覚えようとした父親。「マンマ」「ママ」からなかなか増えない様子に悠々としていたら…
◆「爆発的な勢い」とは それでは、子どもがことばを話せるようになっていくときの“爆発的な勢い”とはどれだけのものなのでしょうか。ざっと子どもの言語発達の過程を追ってみましょう。 子どもが初めて単語らしきものを言うのは、1歳の誕生日の頃です。 子どもの話す単語は、「マンマ」や「ブーブ」など、子どもにとって言いやすい音のかたちをしていることがほとんどで、「ゴハン」や「ジドウシャ」など、大人がふだん使う単語をそのまま口にするのは、むしろまれです。 大人が使うのと違う音のかたちをしていても、「この子は自動車を見るといつも『ブーブ』と言うな」というように、子どもがその音をどういう意味で使っているかがわかる、そんなことばが出てくるのがこの頃なのです。
◆1歳後半から急激なスピードアップが ただ、子どもが話せる単語は、ここからすぐに爆発的な勢いで増えていくわけではありません。先ほどの、ドイツ語を学習していた父親の子どももそうでした。 図表には、子どもが話すことのできる単語が、月齢とともにどのように増えていくかが示されています。 これを見てわかるように、話し始めて最初の半年ほど、単語の増え方は月に3~5語といったところです。 しかしそれが、1歳後半になると、月に30~50語も増えるようになります。最初のゆっくりペースに比べれば、10倍のスピードです。 この急激なスピードアップは、「語彙爆発」と呼ばれます。この爆発的な勢いに、父親のドイツ語は置いていかれたのです。
◆話す文の長さもどんどん長くなっていく さらに言うなら、子どもが爆発的な勢いで学んでいくのは、単語だけではありません。 1歳の誕生日を過ぎた頃の子どもの話し方と言えば、「ワンワン」や「ブーブ」のように、一度に1つの単語だけを言うという「一語発話」でした。 しかし2歳になれば、子どもは「ワンワン イタ」のように単語をつなげた文を話すようになり、その文の長さはどんどん長くなっていきます。 話すことのできる文の長さという点でも、子どもは爆発的な進歩を見せるのです。 *1 『子どもとことば』(岡本夏木著、岩波書店、1982) *2 以下の2文献にもとづき作成:(1)日本語マッカーサー乳幼児言語発達質問紙「語と身振り」 手引(小椋たみ子・綿巻徹著、京都国際社会福祉センター、2004)、(2)日本語マッカーサー乳幼児言語発達質問紙「語と文法」手引(綿巻徹・小椋たみ子著、京都国際社会福祉センター、2004) ※本稿は、『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
針生悦子