崩れた官庁とマスコミ「もたれ合い」の構図 衆院選や兵庫県知事選が境〝SNSで動く〟政治へ 象徴的な韓国「戒厳令」騒動
【ニュース裏表 田中秀臣】 財務省や厚生労働省のSNSに「中傷コメント」や批判が殺到していると話題になっている。あまりの批判の多さに担当部局や大臣自身も対応に追われているというマスコミの記事もある。 【比較してみる】若干フサフサに…。左が11月27日午後の石破茂首相、右が12月2日午前の姿 たしかに財務省や厚労省のSNSの投稿をみると、ひとつの投稿に対して数百件から多いときには数千件もの、主に匿名の人たちのコメントが寄せられている。財務省へのコメントでは、「財務省は国民の敵だ」「財務省解体」などが目立つ。また財務省と関係の深い与党議員の実名批判や、消費減税を唱えるコメントも目立つ。厚労省の方では、社会保障費の負担増や生活苦を訴える内容が多い。 マスコミの多くは、「中傷コメント」が増えたとするが、ざっとみたところ、財務省や厚労省に対する率直な批判や、国民の生活の困難を訴えるものが過半だ。心ない「中傷コメント」が増えているのも確かだが、それほど多くはない。マスコミの印象報道的な批判はやめるべきだ。 先の衆院選や兵庫県知事選あたりを境に、SNSを、選挙や世論形成に悪影響を与えるものとして批判的な姿勢をとるマスコミの報道が増えているように思える。自分たちの無能さを忘れての批判には、世論は決して賛意を与えないだろう。 日本のマスコミの低レベルは問題だ。例えば、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による「戒厳令」発布とその後の騒動について、日本のマスコミの多くはライブでの発信を怠った。対してSNSをみれば、韓国と海外の通信社、あるいは国内外の専門家たちの解説的投稿が夜を徹して行われた。まさにSNSの利便性を実感させる出来事だった。 解説も秀逸なものがあった。日本のマスコミは、韓国の市民たちが大挙して国会前で抗議していたとする写真を解説つきで掲載した。マスコミ定番の国家対市民の構図だ。だが、SNSではその「市民」の多くが、いわば左翼系の団体を中心にした組織化されたものであるという指摘もあり、興味深く思った。マスコミもSNSを敵視せずに、より一層の情報の獲得と解説の力を向上させるべきだ。 だが実際には、いまだに財務省などの官僚たちの「作文」を真に受けて、それをそのまま記事に流用している。財務省やそれと連動している自民党の税制調査会の方針を、決定事項のように報道するのが定番だ。だが、そのマスコミと財務省一派のもたれあいの構図は、「少数与党」の下では崩壊した。
SNSでも自民党税調は具体的な批判の対象となっている。自民党税調のような「奥の院」的な権力が、公開の場で批判の対象になったことだけでもSNSの貢献は大きい。虚偽の情報や政治的扇動に注意しながら、SNSが成長することを期待したい。 (上武大学教授 田中秀臣)