パリ五輪で感じた可能性と課題。「それでもアスリートがSNSをやる理由」【松田丈志の手ぶらでは帰さない!~日本スポーツ<健康経営>論~ 第7回】
SNSの普及に伴い、テレビ以外で五輪に触れる人も増えてきています。今大会は国際オリンピック委員会(IOC)もJOCも、SNSでの情報発信にこれまで以上に注力しました。また、選手は自身のSNSを通じて、メディアを介しては伝えきれないパーソナリティを発信し、ファンとの距離を縮められる利点もあります。 選手に届くコメントには好意的なものがほとんどである一方、単なる誹謗中傷も散見されます。選手を誹謗中傷する言葉は、積み重なれば時に選手生命や命すら奪いかねないものですから、発信する前に冷静になって考えていただきたいです。 個人戦での敗戦後、自身のSNSに誹謗中傷ともとれるコメントが寄せられた柔道の阿部詩(あべ・うた)選手は会見でこう話してくれました。「もちろん応援してくれる言葉のほうがうれしい」としつつ、批判的なコメントに対しては「近くで応援してくれる人の言葉が大事だと思っているし、その人たちの言葉を信じて頑張っていきたい」と。 これは、批判的なコメントを見たとしても意識的に自分の中でそれらを排除するということで、これができる選手や、できているあいだは良いのですが、批判的なコメントが積み重なり排除しきれなくなる可能性が誰にでもあり、そのキャパシティは人によってさまざまです。 私も人前に出る仕事をしているので、いろいろなコメントをいただきます。今時点ではどんなコメントも一度は見るようにしていますが、明らかにただ批判したいだけ、攻撃したいだけの類のものはすぐに忘れます。自分にとって何のプラスにもならないからです。 私は選手としての現役生活の中では、SNSのない時代からある時代の両方を経験しました。前回のコラムで述べたように、アスリートは時に孤独なものです。数ヶ月に及ぶ海外遠征の際には、家族や友人の日常がまったくわからない時代もありました。今ではSNSを通して、世界中どこにいても誰かとつながることできます。厳しいトレーニングと向き合うとき、応援してくれる人たちの言葉は間違いなく選手にとって力となります。SNSに功罪ある中で、その良い面を伸ばしていくことができればと考えています。 パリ五輪は課題も多くありましたが、異例の大会となった東京大会では感じられなかった観客の熱狂を感じられ、私としてはうれしくもあり、可能性を感じられる大会となりました。まだまだ五輪は未完成です。その可能性を最大化しつつ、課題をひとつひとつ改善していくことで、五輪自体も進化していけるのだと思います。 次は8月28日からパラリンピックが始まります。 スポーツ観戦が大好きで、盛り上げ上手なフランスの人たちです。パラリンピックも盛り上がる予感がします。 文/松田丈志 写真提供/株式会社Cloud9