マイナス金利が蝕む自治体の資金調達能力─相次ぐ住民参加型「公募債」中止
環境政策を推進する財源を調達する手段として、東京都は「東京グリーンボンド」と呼ばれる債券を12月8日から19日まで売り出しています。今回、都が売り出すグリーンボンドは環境分野に特化した債券ですが、機関投資家のみならず個人投資家でも購入できるものです。こうした一般市民を対象にした債券は、公募債などとも呼ばれます。 都のように公募債を発行して幅広い層から資金を調達する自治体がある一方で、近年は公募債の発行を取りやめる地方自治体が続出しています。起債を取りやめる自治体は、人口が少なかったり財政が厳しかったりする自治体ばかりではありません。横浜市や神戸市といった政令指定都市も発行を中止しているのです。 どうして、公募債の発行取りやめが相次いでいるのでしょうか?
国債よりも金利上乗せで人気だったミニ公募債、最盛期の発行総額3513億円
市民や県民を対象にした住民参加型市場公募債(ミニ公募債)は、2001(平成13)年度に群馬県が10億円で起債したのが初めてとされています。ミニ公募債は、起債する自治体が購入者を在住・在勤する県民や市民に限定していること、債券で調達した資金の使途を病院建設・公園整備などと明確にしている点が特徴です。 また、購入金額の下限が1万円といったように地方自治体が発行する債券としては購入金額が低く設定されていることも特徴です。一口の購入金額が安くなることで、個人でも買いやすくなるからです。 群馬県の愛県債を皮切りに、地方自治体はミニ公募債の発行を加速させました。翌年には、34団体が総額1636億円のミニ公募債を発行しています。 「2000年前後、政府は財政投融資改革を進めました。そうしたことから、民間資金を積極的に活用する流れになり、地方自治体が市場で資金調達する公募債の発行が推奨されたのです」とミニ公募債がブームになった背景を分析するのは、一般財団法人地方債協会上席研究員の青木世一さんです。 「当時は足利銀行やりそな銀行が実質的に国有化されるといった金融不安から、地方自治体が発行する債券なら安心というムードが強くなりました。くわえて、ミニ公募債は金利を国債よりも上乗せしています。そうした背景から、個人投資家の選好に合致し、売り切れてしまうケースが続出したのです」(青木さん)。 財政投融資改革でミニ公募債が発行される以前、地方自治体は主に銀行等引受債などで資金を調達していました。地方自治体の資金調達手段は多岐に渡りますが、ミニ公募債を発行することで資金調達の選択肢がひとつ増えたことになります。 地方分権や地方自治体の自主性・自律性の観点からも、公募債は歓迎されました。また、資金を調達する自治体のみならず政府・財務省・総務省などもミニ公募債による資金調達を奨励したのです。政府の後押しもあって、ミニ公募債の発行は最盛期の2006年度に124団体、総額3513億円にまで達しました。